心が傷ついてぬけがらになってしまった母との幾月もの晩よりも、
問いかけても応えてはくれない死者の父への思慕よりも。
騒々しく叱ったり笑ったりする猿と、過去をすっかり忘れて陽気に前進するクワガタとのおとぎ話のような幾日かの旅の方がKUBOを生かす、というのは。
生きようとするこどもにとっての大人の在りかたを改めて考えさせられた。
親の後悔や心残りは時に子の心を蝕むが、それは子の人生とは本来関係のないもので、彼らが生きようとする本来のちからを奪うものであってはならない。
親の気持ちを汲み取って子が生きようとするという、大人の心を満足させるドラマや映画もそれなりに存在するけれど、本作はこどものKUBOがきちんと主体的に動いていて安心した。
KUBOの目にはきちんと彼の意思が感じられ映画とは思えず、導入部の台詞と共に観賞者を最期まで引っ張っていってくれると感じる。
‘死ぬ’ということを真っ直ぐ描いていた点も素晴らしいと思うし、ラストの祖父(月の帝)への台詞もなんと優しく、明るい余生を残してくれたことか。
老いて過去を忘れて無になったからこそ、皆に作ってもらえる過去の物語があると思わせてくれた。
少しずつ過去を失っていったアルツハイマー型認知症の祖母との時間を過ごした私にとってはそれは救いだったし、‘老い’を考える意味でこれほど暖かい描写はないのでは。
自分はまだ人生の半分くらいの地点からしか俯瞰できないけれど、本作ほどまるっと壮大に、生きることを描いている映画は見たことがありませんでした。