むらみさ

バード・ボックスのむらみさのレビュー・感想・評価

バード・ボックス(2018年製作の映画)
3.9
【疑心暗鬼】と【絶望】を視覚化する。

共感や共鳴を心根にしている人間、良心を芯に生きてきた人間ほどすぐにからめとられる設定には、面白さを感じてしまいました。
感情を共有し支えあって共存する人間どおしを、視界から支配し孤立させるものの出現。
ひとの感情ほど、容易く利用され頼りにならないものはないなぁ。


内なる絶望と向き合った結果その魅力にとりつかれてしまった者を精神異常者として病としてきた現代では、救いがないことこそが救いだと声高に主張できるエンタメになるんだなぁ……
劇中、異常者とされるゲイリーが語る絶望の魅力とやらには、彼自身にその感動を共有するための具現化の訓練の積み重ねがないために説得力には欠けるわけなのだけれども。
振り替えって思えば、マロリーの描く絵画と、ゲイリーが描くドローイングの雲泥の差たるや。

しかしながら世界で同時多発的に体感が保証されてしまった世界では、絶望のもつドラッグ性がものすごく説得力をもってしまうのですね、、

強制や他人の価値観に強く晒されてきたひと
愛されて赦されてきた優しいひと
現代で良しとされる、どんなタイプの人間も等しく肯定する映画になってはいない偏った内容ではあるかもしれないけれど。
視覚に頼ってどんなことでも見えていると過信している世のなかには、いびつに光る良作だと思いました。


じぶんは劇中でいえばチャーリーの様に、内なる弱さや脆さを文字や会話や、物語におこしてかたちにして愛でて共存してきた人間に近いため、たぶん好奇心で絶命するな と一考。

そして配役の妙。
その人間が実在するかの様な説得力が、ファンタジーとリアルの間を埋めているかの様でした。
リック役にプルイット・テイラー・ヴィンスが出てきて本当に嬉しかった。
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