あなぐらむ

悦楽交差点のあなぐらむのレビュー・感想・評価

悦楽交差点(2015年製作の映画)
4.3
城定秀夫監督快進撃の起点となり、かつヘボくなっていたピンク映画に喝を入れた快作。
ストーカーという行為を見る側/見られる側からバンテージ・ポイント形式で見せる構成、美術の作り込み、絡みの濃さ、古川いおり得意の「嫌な女の芝居」。どれもお見事。前半を支える佐倉萌も、おんなの逞しさ哀切を感じさせ素晴らしい。
監督デビュー作「味見したい人妻たち」から続く窃視行為と、「わるいおんな」(これも傑作)を接続させ、映画館で画面を観ている我々を挑発するかのような冷徹な「ノワール」が現出した。小沼勝にも繋がる秀逸な一作だ。

何を置いても構成が良いが、主人公が働く工場(社長は森羅万象!)だったり狭くて臭そうな主人公の部屋だったり、そういう美術・ロケに手を抜かない、それを撮ってしまえる一日撮りで鍛えた技術が活きていて、すっと「映画」が立ち上がってくる。
そうこの感じは「日活ロマンポルノ」なのだ。スリリングで先が読めない「性の映画」。

前半たっぷりかけてストーカーの生活を見せて(読唇術のカットの巧さ)我々男性に感情移入させてから、後半で突き放すという無茶苦茶残酷な組み上げで、絡みは後半に集中しているのに観客の心は荒むばかり。そこがいい。絡みが渇いているのは曽根中生の映画みたいだ。

そして本作の挑発的な魅力とは、「自立するオンナ?は?何言ってんの?負け犬が」と美人で専業主婦である事の(或いは意図的に)忘れられた優位性・特権性をオンナ側に投げつけ、返す刀で「キモいんだよお前ら」とストーカー主人公の向こうにいる観客である我々にも罵声を浴びせかける、古川いおりの兇悪な美しさにある。
ラスト、笑いながら走るしかしかない小松君(麻木貴仁が好演)の、その最後の一手さえせせら笑うマコト(古川いおり)には、そんな絶対幸せにはなれない男への侮蔑が刻印されている。彼女は目先のダイヤよりも、あのチャラい旦那に寄生し続けて吸い尽くすのが目的なのだ。そしてきっと、転居した栃木でまた地元の男を誘惑し続けるのだ。あんなストーカー男がどんどん増えていく。あれはいい女房になったんじゃない。変わる気などさらさらない。

前出のように、面白いなと思うのは主婦も「仕事」であるという視点。嫌でも何でも、ステイタス、待遇というペイバックを得る為に、貞淑な妻を装い続ける女の話。子供を作りたくないからと夫と義母に内緒でピルを飲み、SEXだけ楽しんでる専業主婦というマウント。
これは増村保造の描く若尾文子みたいだ。自立してると思ってる女に「負け犬が」って言っちゃえる強さ。
古川いおりという「怖い女」と地獄で笑う「天使」・佐倉萌(監督もマグダラのマリアだと言っていた)。
最後に観客であるダメな俺たちに萌さんが「がんばれー!」ってエールを送ってくれる。
あそこまで怖い映画なのに鑑賞後の爽やかさはもう、佐倉萌のおかげ。こちらも腹黒さを秘めた福咲れんの出演作である事も追記しておく。