のん

ダンケルクののんのレビュー・感想・評価

ダンケルク(2017年製作の映画)
5.0
リアリティの極限

私の人生はクリストファー・ノーランによって完全に狂わされた。

あの時、「ダークナイト」を観ていなければ、きっと私は今ほど映画に対して熱い気持ちを抱いてはいないし、「インセプション」をスクリーンで観ていなければ、IMAXシアターに対する拘りもなかった。私の人生はもっと別な生き方があったのかもしれない。心臓も止まってなかったかも。


そんな人生が薔薇色かは別にして、私にとってクリストファー・ノーランという監督は別格だ。これはもう好きとか嫌いとかいう問題ではない。ある意味 彼の作品を観るために生きている面がある。


「同じことは2度とやらない」とSFからアメコミまでありとあらゆる挑戦を続けるノーランが初めて挑むのは実話、しかも戦争映画。



フィクションでさえ徹底したリアリティを盛り込む監督が、実話と撮るとなれば、これはもうとんでもない臨場感が生まれるに決まっている。


そうした高いハードルをこの作品はオープニングで軽く飛び越えてくる。銃弾が突如として炸裂する最初の1分から、ラスト1秒まで何ひとつ気が抜けない。眼球が飛び出しそうな勢いで画面を凝視していた。

今回は日本で唯一フルサイズでの上映が終わる可能なIMAXシアターで鑑賞したが、映像の情報量に対して脳が追いつかない。


それを顕著に感じたのが、陸海空のうち、空からのシーン。戦闘機が傾くとスクリーン自体が傾いているような視覚の錯覚を覚えた。


監督は「VRのような映画を撮りたい」と語っていたようだが、これを見れば3Dも4Dも要らないんじゃないか思える。圧倒的なリアリティと究極の臨場感が味わえる。


ダンケルクから撤退する、という目的以外にストーリーらしい物語は存在しない。陸の一週間、海の一日、空の一時間という全く異なる時間軸が同時に進行していく展開は「インセプション」を思わせる。

そう、この映画は戦争を題材にしているが戦争映画ではない。迫り来る時間との闘いでありノーランも「サスペンススリラーだ」というように、観客は見えない敵と時間によってゴリゴリ追い詰められていく様を疑似体験させてくれる。


ハンス・ジマーのタイムリミットの秒針を刻む音が頭から離れない。これが止まる瞬間が作品のハイライトにもなっているので劇場でぜひお確かめあれ。



近年は2時間半越えがザラだったノーラン作品では珍しく上映時間はエンドロールを除くとたった97分。うち75パーセントがIMAXフィルムを用いたというから、やはり可能な限り良い環境の映画館で観るべきだろう。


あと2万字くらいは描きたいことがあるのだが、誰も読んでくれないのでこの辺で。
のん

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