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ヒロシマ、そしてフクシマの小のレビュー・感想・評価

ヒロシマ、そしてフクシマ(2015年製作の映画)
4.5
またぼんやり頭にガツーンと鉄槌を下された気分だ。現在の医学では証明できない内部被爆。放射能を体内に吸収した人は何十年か後に、その症状が出てくるという。福島原発問題は終わったのではない。これから始まるのだ。

軍医として広島原爆を目撃し、60年にわたり被爆者の治療を続けてきた肥田舜太郎先生。原爆投下の日、広島におらず爆撃を直接受けなかった人々が、後になって突然発病し、爆撃を受けた人と同じ症状で亡くなっていくことを目撃してきた。そしてそれが内部被爆のせいであることを突き止めたという。

肥田先生の著書『広島の消えた日』を読み心を動かされたフランス人監督が、3.11以降の先生(当時96歳)の活動を撮影したいと製作したドキュメンタリー。

広島原爆による放射能被害はアメリカ政府が調査、情報をコントロールし、その内容は公表されることはなかった。このため内部被爆の問題に気づくのに20年かかったという。

当時、被爆の影響を調べるべくGHQに直接出向いた肥田先生に対し、GHQの医師は「(肥田先生の)言っていることは正しいかもしれないが、正しいことは勝った者が決める、ということを知った方がいい」と言ったそうだ。

軍人ではない、人の命を助ける医師の言葉に憤慨する先生。現在99歳になってなお反核運動を続けている先生の原動力はこういうところにもあるのかもしれない。

反原発の人達への取材が中心なので、内容はとても刺激的で、時に過激だ。

蝶を調べ2012年に研究論文「福島原発時との生物学的影響」を発表した野原千代先生。放射能で傷ついた遺伝子の影響は孫の代まで続くという。論文は日本では無視されたが、海外で大きく取り上げたられた。なお、映画製作後の2015年10月、先生は急性心不全で亡くなった。映画のパンフレットには<何度も福島で蝶の採集を行ったことが原因ではないかと疑う余地がある>とある。

東京都小平市の開業医、三田茂先生。東京・関東の子どもたちの血液、特に白血球の数値低下を指摘していた。先生は「東京は人が住めるとことろではなくなった」と言い、2015年春、岡山に移住した。

この映画が示す放射能の脅威について、私は完全に信じることはできない。しかし、福島原発問題は収束したとか、ある程度被爆しても大丈夫だということも、完全に信じることはできない。

放射能の健康への影響については、まず「わからない」と認めることが必要なのではないか。「わからない」としたうえで、データを収集、分析、検証することが是非とも必要なのではないのか。すぐに結論はでないだろうけど、「わからない」という前提で考えれば、行動は変わるはずだ。

しかし、政治、経済活動を先導しなければならない政府は「国益」を考えてのことだと思うが、「福島原発問題は収束した。原発の管理を強化したから安全だ。限度内なら被爆しても問題ない」ということだろう。

特に2020年東京オリンピック開催を控え、政府は福島原発問題を取り上げたくないというインセンティブを強めているだろう。「国益」とは何なのか。国の借金と同じように、将来に放射能のツケを回していないだろうか。

放射能については子どもを育てる女性の方が敏感だ。子どもの異変にすぐ気づき、異常な雰囲気を感じとるから。国に陳情に出向いた福島の女性達は、不安な気持ち、憤りを対応した役人にぶつけ、「男は想像力がない」と断じていた。私の胸にもグサグサ刺さった。泣きそうになった。

原発について、良いとも悪いとも真剣に考えることなく、流されるままの自分。原発を再稼働することはどういうことか、すぐに考えは定まらないけど、稼働することで、どういう人が、どういう思いになるのか、と想像をすることを怠っていたことは確かだ。

人間は辛いことがあっても生きていくために、忘れるようにできている。だからこそ、時々、思い出すよう努めなければならない。なので、忘れてはならないことについては、映画に限らず、様々なメディアに頻繁にふれるようにしなければならないと痛切に感じる。
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