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PERFECT DAYSの小のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.0
2023年9月、テレビ番組をザッピングしていて、NHKBSのカズ・ヒロさんの特集番組に目を止めた。オードリー・ヘプバーンの若い頃と晩年のポートレートをファインアート作品として作成していた。

カズ・ヒロさんは、第90回アカデミー賞(『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』)、第92回アカデミー賞(『スキャンダル』)でメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞したことで知った人。

<“最高のもの”というのは『自然』と思っています。人それぞれ人生を歩んで、それが表情としてあるいは顔として出てきているので、それを学びたいのと、自然を一番尊敬しています。結局、自然が完璧なので。人間のやることは完璧ではないですから。だからそれを表現するために観察して読み取って、そして表現していくという方法が好きなので、そういうふうにしています>。カズ・ヒロさんは、ポートレートを作成する際、その人物の歴史を深く理解しようとする。
(https://www.nhk.jp/p/ts/XW1RWRY45R/blog/bl/pEGA4e5nv7/bp/pyOw11wQoy/)

オードリーのポートレートのお披露目に『スキャンダル』で親しくなった女優のシャーリーズ・セロンが来て、「若い頃より晩年のオードリーの方を長く観てしまう」というようなことを話していた。

同じ構図の笑みだけど、若い頃は美しい中に将来に可能性と不安を感じる一方、晩年はとても深みのあるものだった、と記憶している。

本作はカズ・ヒロさんが制作した晩年のオードリーのポートレートのような映画だと思った。

東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山(役所広司さん)。規則正しい生活と、途中挟まるイベントで、観る者に彼の人生と、人物像を想像させる。そして人生で誰しもが経験するであろう喜びや悲しみ、苦悩などが積み重なった表情を表現する。

深く刻まれたシワ、憂いをたたえた瞳、みたいな人間の晩年の表情がテーマで、それを映画で表現するとこのようになるのか、と。

ファインアートと違いエンターテインメントが求められる映画として上手いと感じたのは、主人公は、トイレ清掃員であること、通勤に首都高を使うこと、銭湯や浅草駅の地下にある居酒屋に通っていること、洋楽が好きなこと、などの設定の妙。

外国の監督らしく、外国の人から見て興味を引くであろう日本の映像が満載。きれいな公衆トイレは外国の旅行者がとても感動するものの一つ。自作の鏡を使わないと目の届かない裏側や、ウオシュレットのパイプなど、細かいところまでピカピカにしていく様子を観ていると、日本人である自分も行ってみたくなる。

銭湯や地下鉄の浅草駅改札を出たらふらっと立ち寄れる居酒屋も、本作を観た外国の人は行きたくなってしまうのではないかしら。

外国の人の視点で日本の風景を描きつつ、そこで人生を積み重ねている人物の顔を描く。本作で役所広司さんが男優賞を受賞したことは日本人として素直に嬉しい。
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