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黒い司法 0%からの奇跡の小のネタバレレビュー・内容・結末

黒い司法 0%からの奇跡(2019年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

素材、内容は良いけど、ドラマとして盛り上りにかけるかな、 静かな勧善懲悪? というのが第一印象。

その後、原題が『JUST MERCY』(「公正、慈悲」)であることを知り、クグッていくうちに、何だかとても良い作品に思えてきた。

アカデミー賞を狙い12月25日に限定公開したのにノミネートすらされないって、どういうこと? 無実が明白な黒人に死刑を求めるアメリカ社会の暗部を知らしめることが気に入らないのかしら、と思った。

しかし原作(邦題はやっぱり『黒い司法』)を読んだら、アカデミー賞の判断が妥当なように思えてきた。一番の違和感は、そもそも本作って「JUST MERCY」って感じはどこにあるの?ということ。最後の主人公の演説で説明しているように思うけれど、帳尻合わせ感が強くないですか?

原作の一番大切な部分をスポイルせず商業映画として成功に導くという、よくある(?)難題を上手く克服できなかった印象。映像によって主人公の内面を推し量らせようという意図は感じるけれど、わかりにくい。演出面で何かが足りない気がする(単に私の鑑賞力不足かも)。

エピソードの使い方も気になった。主人公が囚人の面会のために裸にさせられるシーンは、原作は感動へと繋がっていくのに、映画は黒人差別の酷さを強調しているだけで、易きに流れている感じがする。

私が原作でなるほどと思ったのは、慈悲、それも加害者側ではなく、被害者側の慈悲こそが社会を変える大きな力になるのではないか、ということ。個人的に核心と思うのは、次の部分。


(以下、原作をネタバレなしで楽しみたい方はスルーでお願いします)



ブライアン・スティーブンソンは10歳の頃、母親と教会に行った際、重度の言語障害のある子どもを(それとは知らずではあるけれど)笑い続けた。

ブライアンは母親に強かに叱られ、その男の子に謝り、ハグし、「君のことを愛している」というよう命じられる。恥ずかしさ、気まずさから、ハグしながら「あの……ええと……君を愛しているよ!」とできるだけ不真面目に聞こえるように言うブライアン。

<ところが男の子は私をさらにぎゅっと抱き返し、耳元でささやいたのだ。彼はどもることも、ためらうこともなく、淀みなく言った。「ぼくも君を愛している」ととてもやさしい、心からの言葉に聞こえ、私はふいになぜか、泣きだしそうになった。>

場面変わって、知的障害のある死刑囚の刑が執行されてしまった日、力及ばず打ちひしがれていたブライアンは車のラジオで聖書を引用した牧師の説教を聞き、次のように思う。

<私は教会の外で私を抱き、赦しと愛をくれた少年のことを思い出した。あのときの私には赦しも愛ももらう資格はなかった。だが思いやりはそうやって働くのだ。ほんの少しの思いやりの力が発揮されるのは、それが“その資格のない人々の世界”に存在するからだ。予想すらしていなかったときにこそ、思いやりの力が最も強力になる−−(略)。慈悲には攻撃と暴力、権力の濫用、大量投獄につながる心の傷や痛手を癒やす力がある。>

冤罪の黒人男性を死刑から救い出すというキャッチーなエピソードの背後にある、感情的に受け入れ難いけれど、とても大切なメッセージ。これが描けていればアカデミー作品賞は確実だった、かな?
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