小

13th 憲法修正第13条の小のレビュー・感想・評価

13th 憲法修正第13条(2016年製作の映画)
4.0
「奴隷制と不本意な隷属を米国内では禁止する。ただし犯罪への処罰は除く。」(アメリカ合衆国憲法修正第13条)

<犯罪者は本質的に国の奴隷である>(本編より)

アメリカの人口が世界に占める割合:5%
アメリカの受刑者が世界に占める割合:25%

アメリカの受刑者数の推移(人)
1970年: 357,292
1980年: 513,900
1985年: 759,100
1990年:1,179,200
2000年:2,015,300
2014年:2,306,200

アメリカで一生のうちに投獄される確率
白人男性:1/17人(5.88%)
黒人男性:1/3人(33.3%)

黒人の割合
対全米人口 :6.5%
対全米受刑者:40.2%

かたちを変え、奴隷制は存続しているという実態を、歴史を踏まえつつ示す作品。インタビューがメインかつテンポが速いので、ただ観ているだけでは十分理解することは難しいが、黒人差別を扱ったアメリカ映画をより良く鑑賞するためにも、ネット配信の利を生かし、止めながら、メモを取りながら観るべき内容。

私の理解のポイントは次のよう。

1.奴隷開放
 ①現象:労働力不足による経済の悪化
 ②対応:黒人を犯罪者に仕立て労働力確保(囚人貸出制度)
 ③手段:黒人を微罪で逮捕、黒人はレイプ犯というイメージの造成(映画『國民の創生』)
 ④問題:リンチ(白人による黒人への私(死)刑)の横行、「野蛮」との非難

2.ジム・クロウ制度
 ⑤目的:差別の合法化
 ⑥結果:公民権運動による公民権法成立
 ⑦現象:犯罪率の上昇(原因は公民権運動かは不明)

3.麻薬戦争の創生(ニクソン:1969〜1974年)
 ⑧利用:公民権運動を犯罪とすり替え。左翼、黒人に麻薬イメージを刷り込み
 ⑨現象:大量投獄の始まり
 ⑩成果:南部の白人を共和党の支持基盤に

4.麻薬戦争実行(レーガン:1981〜1989年)
 ⑪目的:経済悪化、福祉削減による国民の不満をそらす
 ⑫手段:黒人(クラックコカイン)に対する厳罰化、メディアを使い黒人への恐怖心扇動

5.抑圧強化(クリントン:1993〜2001年)
 ⑬目的:民主党支持獲得のため
 ⑭手段:スリーストライク法(3回で終身刑)、必要的最低量刑法(減刑の制限)、真実の量刑(仮釈放の廃止)、警察の重武装化

ざっとした流れは以上のような感じかな。抑圧政策を止められなかった理由として映画では黒人指導者の不在(殺害されたため)も指摘していた。

経済問題(より本質的には黒人に対する白人の恐怖心だと思うけど)から始まり、政治家が権力確保の手段として利用してきた黒人差別は、アメリカらしく「産獄複合体」(巨大な利権に群がる組織や人たち)を生み出す。

ALEC(米国立法交流協(評)議会)という共和党を中心とした保守派の議員と民間企業の団体は、企業が立法に関与する手段として利用されていた(例えばウォルマートは正当防衛のための銃を売るためとかで会員だった。刑務所の運営会社CCA(アメリカは刑務所を民営化)も会員だった)。

企業は営利団体だから当然だけど、市場のパイを増やそうとする。ALECは「アリゾナ州移民法」を作り、警察が人を拘束しやすくした。収容施設は満杯となり、CCAは潤った。

しかし、法案通過への企業関与が疑われるとALCEから企業は抜けていったが(CCAは2010年に内幕を暴かれ脱退した)、「アメリカ保釈連合」は会員のまま。GPSで監視し在宅拘禁すれば、家庭を刑務所にできる。刑務所利権の先細りが見込まれるなか、新しいビジネスモデルが生まれる。

映画では「抑圧システムはしぶとい」とあったが、カネに色はないとはまさにこういうことのような気がする。なお、受刑者に無賃労働をさせて儲ける企業が存在するなど、黒人を労働力(事実上の奴隷)とする歴史は今も変わらない。

弱者が抑圧システムを破壊するには情報を拡散し、外側から圧力をかけるしかないのかな。暴動で注目を集めなくても、市民1人1人がSNSで情報発信、共有できることを希望の光のようにして映画は終わる。

人の本能である恐怖心、利潤をあげることが善の資本主義経済をどう制御していくかが本質だと思うからスカッとする特効薬はない。やはり、短期的には対処療法でしのぎつつ、体質改善(教育や現状の的確な把握と共有)に粘り強く取り組んでいくほかないのだろうなあ。
小