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月の小のネタバレレビュー・内容・結末

(2023年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

【前提】
・宝くじを買うのは億万長者になりたいと考える人である。

【事実】
・宝くじは確率と投資金額のリターンを計算すると罰金同然である。

【結論】
・宝くじを買うのは頭が悪い人である。


「庶民が億万長者になるには宝くじしかないのです。」

「それってあなたの感想ですよね。宝くじを買うと金持ちになれると考える頭の悪さのせいで貧乏のままなんだと思いますよ。」

(元にした記事)
https://www.chunichi.co.jp/article/372111


【前提】
・言葉を話せない人は心がなく意思疎通できないので、人間ではない。

【事実】
・言葉を話せない知的障害者が存在し、税金が使われている。

【結論】
・税金が効率的に使われるためには、言葉を話せない知的障害者は存在してはならない。

「言葉だけが意思疎通のすべてではないでしょう。」

「それってあなたの感想ですよね。施設で現実を見た私と違い、言葉を話せない知的障害者がどういう状態か知らないでしょう。それに出生前検査で異常があるとわかったら、97%の人が中絶するじゃないですか。」


本作の出来事を起こした彼は、最近流行りの「はい論破!」「それってあなたの感想ですよね」を突き詰めた人ではないか、という気がする。

現実の一部分、一つ誤り、ある一瞬を切り取り、それらを一方向の前提のみで考え、複雑な現実を単純な「お話」にする。現実は複雑なままであるから、単純な「お話」との乖離は広がることはあっても埋まることはない。

もし、単純な「お話」が自分の存在にかかわるものならば、現実を「お話」に合わせるしかなくなる。

こうした事件を繰り返さないためには、彼のような思考方法をする人がいなくなれば良いのかもしれないけれど、それでは彼と同じ考え方になってしまう。

問題は、大きく考えれば、都合の悪いものを隠し、暴力を振るうことに抵抗の少ない環境を作ってしまう社会そのものだろう。

そして個人レベルでは、見たくないものから目を背け、「(どうせ死んでしまうのだから)生きることは無意味」と短絡化し、複雑な現実に立ち向かう気力を失っている状態だろう(私のことかも)。

複雑な現実と向き合う労力を惜しむ人ほど、単純な「お話」の誘惑の負け「はい論破!」されかねない。そして論破で黙らされても、社会が良くなることはない気がする。

(参考にした記事)

https://bunshun.jp/articles/-/45689

https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2703S_X20C14A6CC1000/

https://bunshun.jp/articles/-/65727
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