せーじ

聖の青春のせーじのレビュー・感想・評価

聖の青春(2016年製作の映画)
3.8
219本目。例によって地元のTSUTAYAで探していたところ、目に入った作品。
そういえば観てなかったし、借りてみるか…と何の気なしに手に取ってレンタル、そして鑑賞。

気になる部分はあるものの、基本的には見ごたえのある良作でした。

まずはやはり、村山聖を演じた松山ケンイチさんと羽生善治を演じた東出昌大さんの佇まいを含めた演技そのものが、これ以上ないくらいに凄まじい熱を帯びていて、文字通り彼らの"対局"が息を飲むような緊張感と切迫感で演出されていることに舌を巻いてしまった。二人のどこまでも妥協しない役作りと、純粋な役者としてのぶつかり合いを堪能することができるというだけでも、観る価値がある作品だと思う。
演出も、所々スローモーションや意味のない風景カットを入れ込んだりしてしまっているという、例によってな悪いところがあるものの、基本的には抑えた演出を貫き通しており、とても見応えがある作品に仕上がっていると感じた。脇を固める役者さんたちも素晴らしい演技をされており、個人的には染谷将太さん演じる弟弟子と主人公である村山聖がケンカをするくだりや、羽生善治との対局後、小さな小料理屋で酒を飲みかわすくだり、聖が実家で療養中に両親が将棋を指す音で目を覚ましてしまうくだりや、古本屋さんでのくだりなどなど、グッとくる場面も多かった。

ただ…
その一方で、村山聖という棋士を描くにあたって、もう一歩踏み込みが足りていない部分があるのではないだろうかと思ってしまったのも事実で。
そう思う理由として、聖の師匠である、リリー・フランキーさん演じる森七段とのやりとりが、あまり濃密に描かれていないからではないだろうかと自分は考える。「聖が将棋をはじめたきっかけ」そのものは描かれていたのだが、肝心の「どういう経緯で森七段のもとに入門したのか」や「どうして名人になりたいと思っているのか」が明確に描かれていないので、彼の「将棋に対する思い」がとてもエゴイスティックに見えてしまう。それがエゴイスティックに見えてしまうと、病気をおして将棋をやろうとしている姿も、なんだか好き勝手やっているように見えてしまうし、師匠や両親がどこまでも甘やかしている様にすら見えてしまう。…細かく語らずに抑えられた演出が、更にそれを強化してしまうような効果を生んでいるように見えてしまって、観ていて非常に勿体なく感じてしまった。

とはいえ全体的には、一人の人間の短くて濃密な人生を描いた物語として、ある程度は上手く出来ている作品だとは思いました。「原作はこの作品の数百倍面白い」と言っている人もいるくらいなので、探して読まないと、と思います。役者さん達の役作りから、演技の応酬までじっくりと堪能できる、硬派で骨太な作品だと思います。ぜひぜひ。
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