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パターソンのAnima48のレビュー・感想・評価

パターソン(2016年製作の映画)
4.0
かなり前のこと、深夜のファミレスで過ごすことが多くて、ぼんやりと人の話を聞く事が習慣になっていたことがある。別れ話でもめている人、ホスト達?の反省会、学生さん達の噂話とか。昨日何してた?って友達に聞かれても、ファミレスでぼうっとしてたとしか答えようがなかったんだけれど、それなりに愉しい時間だった。そんな頃を思い出した。

素敵な街のバス運転者、パターソンの一週間の様子をまるですぐ隣から見つめることができて、愛おしい。月から金まで日常の生活がパターンに沿って規則正しく過ぎていく。でも一日として全く同じ日はなくて、出来事も変われば、周囲から受ける刺激も違う。一日の様子が一つのパターンでそれを守りながらも、それぞれ違う言葉≒出来事が起きていく。

そして、終盤ある変化が起きるんだけれど..そういったあたりがパターソンの一週間がまるで詩のように感じた。パターソンって名前はこの街の名前でもあって、まるでパターソンの暮らしが、この街が産んだ詩のようにも思えた。

パターソンは、周りの人の話や、街の様子などを吸収して詩を作る。そして彼に回りの出来事には詩が纏わることが多い。そしてそれは詩なんて意識していない人にとっては気にも留めないだろう。僕達が目や耳や口を使うけど、パターソンは詩を使って世界を認識・構築しているような気がした。・・芸塾家ってそんな感じの暮らし方なのかな。

特に詩に興味がない人にとっては、パターソンの暮らしは単調なんだけれど、彼にとっては詩作の材料がいっぱいのエキサイティングな暮らしかもしれない。じっとしている釣り人の様子を普通の人は退屈で落ち着いた気楽な趣味として見てしまうけれど、実は釣り人は時間とかを綿密に計算し、指先の感覚やちょっとした糸の変化なども見逃さないで興奮した時間を送っている・・そんな感じなんだろうか?

パターソンの詩人としてのピンチがやってくる、それでもまたいつもの場所にいってしまうんだけれど、やっぱりこの生き方は変えられないよねっと語っている感じだった。あるイベントでまた詩人として止まった時間が動き出すんだけれど、そこから始まる彼の一週間を見てみたい。

そんなパターソンだけれど、自分の詩を発表する気はないようで、奥さん(彼女?)から纏めるように言われても、なかなか纏めない。彼女しかパターソンの詩に触れていない。それでも良いのかな?彼女にだけ読んで貰えれば良いのかも?ひょっとしたらすべての詩が彼女へのメッセージなのかもしれない。特に一篇は彼女への心情吐露みたいなものもあるし。

なにも職業で詩を書くだけが詩人じゃなくて、世界との、向き合い方に詩を中心に持ってくる人が詩人なのかもしれない。それが写真であったり、音楽であったり、そういった普通に暮らしている芸術家ってこういう生き方なのかなって思った
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