ま2だ

パターソンのま2だのレビュー・感想・評価

パターソン(2016年製作の映画)
4.6
パターソン観賞。

パターソンという町に住むパターソンという男の日常。それが朝の目覚めから一日の終わりまで、律儀なフェードインアウトで曜日ごとに区切って差し出されていく。
語り口からわかるように、大きな起伏もなく物語は進んでいくのだが、本作のテーマはこのアンチ・クライマックス性というよりはムードの均質性そのものにあるだろう。

曜日区切りというフォーマット、スケジューリングされた登場人物の行動、バスの運転手でありながら詩人でもあるパターソンの書く詩の一節が少しずつ画面に浮かび上がるテンポ、それを口ずさむ主演のアダム・ドライバーの声の魅力。それらによって映画に心地よいループ感が生まれ、穏やかなグルーヴを醸成していく。気持ちいいフレーズをサンプリングしてただただループさせたメロウなヒップホップのような映画。展開の緩急ではなく、一定のところに停滞することで生じるグルーヴが物語を牽引していく。たまらなく多幸感に満ちた時間だ。

このメロウネスの基本となるフレーズ、それが詩人が世界に向ける柔らかなまなざし、感性であり、愛である。朝、妻と交わした会話の内容から、町の風景には様々な双子が顔を出すことになるが、この少しアメリを思わせるささやかなマジック・リアリズム描写は、イマジネーションとは奇矯なクリエイティビティだけではなく、誠実なホスピタリティの源泉でもあることもまた示している。想像することは他者に想いを馳せること。我々は詩人の愛が甘美に溶けだした町の情景を映画として目にしているのだ。

本作における詩の多くは現代詩人ロン・パジェットのものだというが、劇中で少女が詠む律儀でみずみずしい詩がジャームッシュ監督自身の作だということを後で知り、またほっこりした気分になった。

余談というにはあまりに大きな要素なのだが、個人的に世界で一番好きなSEである中型犬の足音が、本作では甘美なソロプレイのように定期的に挿入され、それだけでも最高な気持ちにさせられる。犬映画としても最高の一本だ。
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