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ヒトラーへの285枚の葉書のPikKaのレビュー・感想・評価

ヒトラーへの285枚の葉書(2016年製作の映画)
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第二次世界大戦下、
1940〜1943年頃のベルリン。
出兵していた息子ハンスが戦死したことでヒトラー政権に対する批判を無記名で書いたカードを町中の至るところに置いて市民に訴えようとしたクヴァンゲル夫妻の生涯を描いたヒューマンドラマ。
(実話ではハンペル夫妻で、戦死したのは妻側の弟)

本作で監督・脚本を務めたヴァンサン・ペレーズにはドイツとスペインの血が流れている。
監督の祖父は党員に射殺され、ドイツ人の叔父はロシア戦線で戦死していることなどもあってハンペル夫妻の実在の物語に心を動かされ製作を決めたという経緯なだけに、ほぼ忠実に描かれている。

285枚という膨大な量のカード。
それを筆跡や内容を変えて1枚1枚時間をかけて作り上げ、時には電車を乗り継いでまで様々な場所に置いてくる途方もない労力。
(実物は劇中のものよりもっと小さい文字でギッシリ書かれていたとのこと)

本作で描かれていることだけに限らず、
同国民の顔馴染みで普段から親しくしてる相手…なかには家族であっても自分の身を守り生き抜く術として監視と密告が一般社会においても常態化している戦時下の本当の不安と恐怖。
中にはデッチ上げや誤解での密告でも処刑されるなどもあるから、自分の家に閉じこもって静かに暮らしていたとしても尽きない疑心暗鬼や恐怖などは想像を絶する…

そんな中でも大事なひとり息子を奪われ、これ以上もう失うものなど何もないからこその覚悟で命をかけて突き動かす信念の重さや夫妻の愛の深さに胸を打たれる。

そして回収されてくるカードすべてに唯一目を通し、連日犯人探しをしていたエッシェリヒ警部(ダニエル・ブリュール)の、上層部の思想や戦争そのものについての心の変化と葛藤、選んだ結末にも胸が熱くなる。

ブレンダンとエマ。
深みのある演技で魅せる名優ふたりの魂の熱演、役者としての互いの信頼度の深さに引き込まれる。

英語圏以外の国を舞台に描かれた映画の多くで鑑賞者から挙がる声として、その国の本来の言語ではなく英語が主として用いられていること。

本作でも主言語はドイツ語ではなく英語が用いられており、また、アイルランド出身のブレンダン・グリーソンとイギリス出身のエマ・トンプソンがクヴァンゲル夫妻を演じることについても監督はインタビューで詳しく触れています。

1946年に出版された原作が、長い時間を経て2010年に英語版が出版されたことで世界中で多くの人の目に触れベストセラーになったということや、戦争は私たちひとりひとり全員の問題でもあるという想いから英語で作ることに意義があったんだ、と。

主演ふたりが本作に参加するに至った経緯やハンペル夫妻や作品に込められたメッセージに対しての想いなども語られているのでインタビューも必見です。
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