亡き婚約者フランツのお墓に通うアンナは、ある日彼のかつての友人でフランスから来たエイドリアンに出会います。
オゾン監督の映画を沢山観てきましたが、戦争の爪痕が残るドイツをモノクロ映像で映し出しながら、オゾン節の効いた上質なミステリーを徐々に溶け込ませていく演出が見事で見惚れた。
戦争が齎す喪失感や兵士達が抱えるトラウマが、彼らの日常にどのように影響しているかを静かに観客に教えてくれます。
フランツの父が言っていたように、戦争に行った若き兵士達の命は誰が償うのか。戦地に送り込んだのは、彼らの親世代の人間だ。
しかし、戦前や戦時中の混沌とした世情では、多くの人々が改善懲悪の判断など真面には出来ないだろう。本質が見えるのはいつも冷静さを取り戻して客観視出来る頃だ。
実の娘のように接してくれるフランツの両親の為にアンナがした行動を善意や思い遣りと捉えましたが、これは観る人によって解釈が変わってきそう。
オゾンの作風を知っていても、ストーリーの持って行き方や観客の心の掴み方が想像以上に秀逸で、個人的には大好きです。
予習なしで観ることをお勧めします。