カツマ

冷たい熱帯魚のカツマのレビュー・感想・評価

冷たい熱帯魚(2010年製作の映画)
3.9
これが人間の剥き出しの狂気なのか。それとも剥き出された挙句に狂気が目覚めるのか。あっち側に行ってしまった者はもはや人間と呼べるのか。圧倒的な悪。だが、正当化された悪。これが実話ベースというのが何より狂っている。
普通、映画というのはほとんどの場合全てを描かない。創造力を掻き立てたり、連想させたり、ある程度は鑑賞者側に委ねているところがある。が、この映画は端折ることなく全てを描いてしまった。人間の狂気をそのまま焼き付けたような禍々しいほど異形な傑作。

寂れた熱帯魚店を経営する社本は妻の妙子とはギクシャクし、娘の美津子からは完全にバカにされている。ある日、社本は美津子の万引き騒動で同じく熱帯魚店を経営する村田に出会う。村田は陽気な実業家肌の男で、美津子を自らのお店で雇うことを申し出る。社本は娘を村田のもとに預けることにしたが、徐々に村田の態度は豹変。実は村田の周りで何人もの人間が失踪し、行方不明になっていた。そう、すでに惨劇の幕は上がっていたのだ。

でんでんはこの作品で日本アカデミー賞で最優秀助演男優賞を獲得。それは取るだろう、取らないとおかしい。殺人描写も迫真という表現が陳腐に思えるくらいの強烈さで、グロ耐性があったとしてもたじろぐレベルの衝撃度だ。
だが、残念なことにこれは人間を描いた話だった。階段を転げ落ちるかのように、血みどろの負の連鎖は暗黒面の最もドス黒い部分へとスポットライトをあて、それを生々しいほどのリアルさで抉り出す。
映画としての完成度は凄まじい。忘れられないラストシーンという意味でも、心の片隅にこびり付いてしまって、なかなか落ちてくれなそうな作品です。
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