【石川慶特集3作品目】
『他人を語り、本性を現すのは、誰だ？』
面白かった。
そして、とにかく暗かった。
人間の"善"や"悪"に焦点を当てた映画は多いと思うけど、この映画は"愚か"に焦点を当てている。
この映画では悲惨な事象が幾度となく起こるけど、ポジティブに言えば基本的に悪意を持った登場人物はいないのだ。
むしろ主人公の兄妹を除いては。
他の人々の愚かさが兄妹にしわよって、二人の悪意をもって犯罪に至らしめる。
あまりにも救いがなく、人間的な映画だった。
ただただ暗いだけでは決してない。
ストーリーが滅茶苦茶よくできている。
一家殺人事件の犯人は誰なのか、ずっと気になりながら映画にのめり込むことができた。
そしてとにかく妻夫木聡、そして満島ひかりの演技力が爆発している。
特に家族も含めた愚かさの皺寄せを全身で受け切ってサイコパスと化した光子を演じる満島ひかりの演技は凄まじかった。
見終わると妻夫木聡演じた記者、武志の悪意の塊っぷりに怖くなる。
取材をして妹の犯行だと気づいていた人物の口を封じようと図っていたということ。
よく見ると、彼は色んな関係者の話を聞く傍ら、あきらかに彼ら彼女たちの愚かさを嘲笑っている。
怖かった。
各登場人物の愚かさは、人間の愚かさのアルアルを極めたようなもので、納得感があった。
性的行為によって女性を傷つけ、しかもそのことを武勇伝的に話してしまう愚かな男。
色んな人と仲良くしようとする"地味な子"を嘲笑い、心の中では憧れているのにタイプが違う故に貶したことを言い、しかも学生時代のヒエラルキーを引きずっている愚かな女。
無邪気だけど利用価値のあるとみなした女を踏み台にする人気者の美女。
流石にそれぞれが愚かさに振れ過ぎてはいるけど、多かれ少なかれ人間である以上そういった要素はある。
気をつけていかないと。
粗筋で言うとどうだろう、兄の武志がカフェ店員を殺害してしまうのはやり過ぎなのではないかと思ったし、武志が光子との間に子供を作ってしまったこともいき過ぎているように感じではしまった。
でも兄妹は世間の愚かさの皺寄せを一身に受けている。
そのような感想を自分が抱いてしまうのは、恵まれた境遇にいるからだからなのかもしれないとも思った。
