ま2だ

ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命のま2だのレビュー・感想・評価

3.3
ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命、観賞。

この長い長い、介護精神に富んだ邦題に、本作を感動ものとしてプッシュしようとする日本の配給会社の涙ぐましい努力が窺えるが、原題はZookeeper's Wife。本作の美徳は長い邦題がミスリードし、覆い隠している部分にこそある。

これは戦時下のある夫婦の物語。ごり押しの感動だけがヒューマンドラマを醸成するわけではないのだ。

ナチス統治下のワルシャワで、ゲットーに送られたユダヤ人たちを密かに動物園の地下に匿った夫婦の、実話を基にした物語。邦題では、主演と製作総指揮をつとめたジェシカ・チャスティン演じる妻アントニーナの物語だとミスリードしているが、ユダヤ人救出という観点から見ると、夫婦の貢献は完全にイーブンである。

ノンフィクションベースなので止むを得ない部分も多いのだろうが、戦争ドラマパートは、登場人物たちの杜撰で不用意な行いがスリルを誘発するいささか切れ味に欠けるプロット、感動というよりは若干イライラさせられる出来だ。

本作の魅力はむしろ、極限状況下における夫婦の関係性の描写にある。ゲットーからユダヤ人たちを豚の餌に隠して動物園に輸送する夫は、目に映る全てのユダヤ人を助けられない現実に煩悶し、ドイツ軍の監視下の元、地下にユダヤ人を匿いながら素知らぬ顔で独り屋敷を守る妻も、その孤独と恐怖に押しつぶされそうになる。

自分たちの行為を正しいことと確信し、またお互いを愛し、信じながらもそれぞれの抱えた苦悩ゆえ"You don't know"と互いを責める中盤のやり取りは本作のハイライトだ。夫婦と、夫の留守中に屋敷を訪ねてくる、妻を憎からず思うドイツ人将校を含めたスリリングな人間関係が醸し出すメロウネスこそが本作の大きな特徴であり、魅力だと思う。

本作の正体はシンドラーのリスト、というよりはイングリッシュ・ペイシェント的メロドラマと言ってもいいだろう。今年観た作品では、ゼメキスのマリアンヌに似たテイストだ。

人間・女性・妻・母という、個人を貫く軸をチャスティンが非常にエモーショナルかつ知的に演じていてさすがの素晴らしさだ。原題であるZookeeper's Wifeはその意味で非常に的確だと言えるだろう。
ま2だ

ま2だ