B5版

ウインド・リバーのB5版のレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
4.8
恥ずかしながら、インディアン保留地の存在をこの映画で初めて知った。
しかしこの見えてこないという構造こそ問題の本質ともいえる。
意識下に登らなければ無いもの同然に扱われる、現代まで続いてしまったインディアン差別の構造は根深い。

閉鎖的な土地に追いやられ、世代を経ても一向に差し伸べられない手、代わりに理由なく向けられる歪な眼差し。
生きるごとに無力感だけ植え付けられ、文化のアイデンティティを失って尚じっと耐える生活の中、ささやかに培ってきた幸せ。
それすら、ある日突然奪われる。
積み上げた努力が報われ幸せになれるのかは誰も教えてくれないが、ほんの少し現実を慰めてくれる、身体を蝕む愉悦だけは確実に側にある。
過酷な現実に向き合うか、諦念に乗っかるか。
選べないのだと嘯けば、ドラッグ漬けの死体や被害者面の屑共とたちまち肩を並べてしまうのだ。
水の低きに就く如し、この雪原に横たわる生者の理はあまりに原始的で無慈悲で、言葉も無い…

主人公は外部からコミュニティへ移住したアベンジャーズでお馴染みジェレミー・レナー演じるハンター。過去を一見割り切ってる様で葛藤する男の相棒ジェーン役にオルセン姉妹の妹、エリザベス・オルセン。主演勢の張り詰めた緊張感の中、謎を辿っていく姿がとても良かった。
特にジェーンは物語の導入では部外者として正論をなぞり行動選択する姿にイライラするのだが、生まれた時からそう"在る"ように見える人々についての地域外の人の態度なんて普通はそんなものである。コミュニティに入り被害者家族の無念を知り、彼女の死を悼み住民と言葉を重ねる中で、頼もしい仲間になっていく過程には胸が熱くなった。
鑑賞時は、この主題で主演二人が白人でいいの?とモヤモヤしていたが、根底の迫害を持ち込んだ当人達こそ問題を解消すべきなのだというメッセージとして受け取ってた。

しかし驚いたのがこの映画の製作総指揮は、あのワインスタインという件。自ら犯してきた罪を糾弾する側に立つ映画を加害者がプロデュースしてたとは厚顔無恥も甚だしい限り。
映画自体は素晴らしい作品だが、寒気のくる話があちらこちら世を跋扈していることに気が滅入る。
これからは人の尊厳を無視しなくても素晴らしい映画は作れるのだと映画業界にどうか証明してほしい。
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