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空と風と星の詩人 尹東柱(ユンドンジュ)の生涯のmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

4.4
「ハート&ハーツ・コリアン・フィルムウィーク」にて。

尹東柱(ユン・ドンジュ)という詩人を知ってますか?
わたしは薄っすらと名前を聞いたことがある程度でしたので、少し尹東柱について調べて予備知識を得てから映画を見に行きましたが、時代に翻弄され日本で若くして非業の死を遂げた詩人で、韓国では知らない人はいないという有名な人です。

満州の朝鮮人集落で育つも、日本の統治下にあった時代で、創氏改名によって苗字を奪われ、朝鮮語も禁止されながら、いとこのモンギュと共に日本へ留学し、立教大学や同志社大学で文学を学ぶという青春時代を過ごしました。

幼い頃から一緒だったモンギュとは性格も生き方も対照的なドンジュ。
モンギュは日本による支配・抑圧下に生きる中で、万人が平等な社会を理想とし、朝鮮民族の日本からの独立を目指すレジスタンスでしたが、ドンジュはモンギュのそばにいながらもそこには加わらず、英文学を学び詩を書くことに情熱を注ぎました。

ですが、日本の戦況が悪化してくる太平洋戦争末期に治安維持法によって憲兵に逮捕、投獄され、福岡の刑務所で人体実験まがいの拷問を受けたのち27歳という若さで獄死しました。
禁止されていた朝鮮語で詩を書いたためでした。

日本人にとって戦争というと、きっと原爆投下や若くして命を散らした特攻隊などの悲劇を思い浮かべる事が多いと思うのですが、日本の植民地支配がどういうものであったのかはあまりよく知られてないように思います。

わたしも日本の加害行為については被害に比べると知識も少なく、この作品を見て、よその国を支配し、自由や権利を奪い、日本語や日本名、日本の価値観を押し付けた同化政策によって、自分の国の言葉や家族の苗字を奪われた人達の悲しみや憤りを知り、人々の最も大切なアイデンティティを奪うことの非道さに、悲しさと恥ずかしさがこみ上げてきました。

文学、詩を愛した心優しい青年だったドンジュ。
戦争さえなければ、素晴らしい詩をたくさん書いて残したことと思います。
モンギュの独立運動だって、抑圧と支配から解放されて自分達の国を取り戻したいという思いはよく理解できます。
日本を転覆させようとかではなく、ただ当たり前に自分の国で自分達の言葉を使い、自由に平和に生きたかっただけだったと思います。

こうした日本の他国への加害行為について、私たちはあまりにも知らなさすぎるし、自国の暗い歴史から目を背けたり正当化するのではなく、向き合い知らなければいけないと思いました。

ドンジュが留学した立教大学の教授との交流は、国籍や民族の違いを超えて、文学や芸術を愛する者同士がつながり、互いに戦争を憎み平和を求めて心が通い合う様が描かれていて、本当に時代が違えばどれだけ良かっただろうか、戦争がもたらした罪の大きさを思いました。

詩の素晴らしさを感じ取るだけの感性を持ち合わせていないのが残念ですが…涙
ドンジュが朝鮮語を奪われてもなお母国語で書き続けた思いに胸がいっぱいになりました。

低予算で、キャストもスタッフもギャラなしで作られたようで、尹東柱の生誕100年に合わせて彼の短い生涯と美しい詩を綴った本作、とても素晴らしかったです。
カン・ハヌルがドンジュを純粋で繊細に演じ、彼が朗読する詩がまた、とても優しくて柔らかくて心地良かったです。

上映館は少ないですが、たくさんの人に見て欲しい作品です。
治安維持法が蘇りそうなきな臭い今日この頃ですが、憎しみや嫌悪ではなく、国や民族を超えてつながり合い平和であり続けて欲しいとあらためてそう願う気持ちです。
悲しい歴史を繰り返さないように…。

99
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