要所要所に惹かれるところはあるものの、いくつかの悪い部分がそれを台無しにしてしまっている印象を受けた。
大きく分けて欠点は三つ。
ひとつは、冒頭から繰り広げられる極端にデフォルメされた描写。
わざとだとはわかりつつも、人物も行動も設定もデフォルメが凄まじいので、観ていてリアリティを感じられない。
どうしても上辺をなぞっているだけの嘘臭い印象がつきまとう。
しかも、それが後々まであとを引く。
もうひとつは、物語のバランスの悪さ。
描きたいのは「誰もがおかしくなっていくような街で孤独を抱えた男女が出会い、惹かれあう」といったようなものだと思うのだが、いかんせん、欲張ってあれやこれやの人の孤独を描いてしまっているため、メインの二人の恋愛が光ってこない。
特に亮太に関しては完全に描写不足だと感じた。
愛衣とW主演なのに、なぜ彼が孤独を抱えているのかがまるで伝わってこないのは致命的だ。
最後のひとつは、各エピソードを亮太のナレーションでざっくりとまとめてしまっている点。
ここぞという時に出てくるならまだしも、いちいちナレーションが入るのは、デフォルメ同様、完全にリアリティを損ねている。
役者さんは上手い人が大勢出ているし、部分的にとてもいいところも確かにあるのだ。
例えば、家族を求める気持ちが強いあまり、愛衣が人の家族に侵食し壊していってしまうエピソードなんかは素晴らしい。
家族が変質していく様子も怖いし、伊藤沙莉が狂ったように父親にすがるシーンも見応えたっぷりだ。
が、ここでもナレーションが邪魔をする。
せっかく抑えたトーンで描き、何かを感じさせてくれるシーンになっているはずが、唐突にナレーションでぶち切られるのは興覚めと言うしかない。
後半のみんなが堕ちていってしまうシーンも同様だ。
狂気に駆られて暴力に走るシーンは、どうしても前半のデフォルメが思い出されてしまい、集中できない。
みんなが堕ちていくなか、亮太の描写がほとんどないので、彼に感情移入することもできない。
そして、やっぱり最後は、ナレーションでぶつ切り。
ほかにもいいシーンはいくつも挙げられる。
そこだけ引っこ抜いて観れば、べた褒めしたくなるほどのいい出来のシーンだ。
それが全部が全部、先に挙げた三つの欠点によって、色褪せ、全体として見たら噓臭く見えてしまうのは残念でならない。
「ミッドナイトスワン」とか観る限り、落ち着いて撮ることができる監督だと思うのに、なんでこうなってしまったんだろう。
