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ブレードランナー 2049のymdのレビュー・感想・評価

ブレードランナー 2049(2017年製作の映画)
4.6
カルトを超えたクラシックである『ブレードランナー』の続編を作るという途方もないプロジェクトを引き受けたドゥニ・ヴィルヌーヴの覚悟がまずもって素晴らしいし、彼に白羽の矢を立てた製作会社の慧眼も完璧。リドリー・スコットも製作総指揮で関わっているようだけど、これはもう続編としては申し分の無い、上質なSF映画だと思う。

身も蓋もないことを言ってしまうと地味なSF映画である『ブレードランナー』は、哲学的なテーマをサイバーパンクの礎を築いた退廃的な舞台装置とハードボイルドなムードの上で繰り広げ、かつハリソン・フォードのクールながらも飄々としたスタイルが奇跡的に合致したことで生まれた不思議な映画である。

なので当然、多くのファン心理としてはあの空気感の継承は求めてはいつつも、安直なリバイスに終わってしまうことの危惧感というのも絶対に抱いていたはずで。

結果的に今作は、しっかりと『ブレードランナー』のコンセプトを踏襲しつつも、圧倒的にモダンでアーティフィシャルな独自の世界観を作り上げている。

大作映画としては驚くくらいアンビエントな作りだけど、その奥ゆかしさは底が見えず、長尺を感じさせないくらい画面を仔細に眺めてしまった。

前作のストーリーをしっかりと継承しつつも、これはあくまでもその先にある物語である。ハリソン・フォード演じるデッカードは登場するがそれはあくまでもファンサービスであり、特段出てくる必然性はない(彼自体は物語には欠かせない最重要人物であるが)。

むしろぼくが心を打たれたのは、ライアン・ゴズリングが演じた主人公Kの内面をひたすら照射し続ける語り口だ。

もうどうしようもないくらい不憫で可哀想な主人公なんだけど、160分の中で彼が絶え間なく自問を繰り返していく姿が非常に痛々しくも胸に迫るし、彼ひとりにフォーカスしていくことで靄がかった真相が徐々に開けていくミステリー的な構造にもなっている、というのがとても好きだった。

深淵なテーマを形骸化させることなく引き継がせることができただけでも、今作の価値というのは証明されていると思う。哲学的SFの傑作。
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