マティス

愛を綴る女のマティスのネタバレレビュー・内容・結末

愛を綴る女(2016年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

相手を思う気持ち、自分を信じる心

 この映画、とても好きだ。マリオン・コティヤールも美しかった。

「愛を与えて。ダメなら死なせて」と神に祈る、愛に情熱的な女と、ただ実直だけが取り柄の寡黙な男。女にとって男は物足りない。何でこの私がこんな男と。そこに現れる洗練された魅力的な男。私に相応しい男。ボヴァリー夫人と同じ展開だ。

 海が見える庭で、ガブリエルが、どうして今まで言わなかったの?と尋ねた時のジョゼの言葉には泣いた。

 今が幸せであれば、過去の辛い出来事も、今を迎えるために必要だった通過点だと思える。大事なことは、辛い時に自分を信じられるかということ。そしてどんなにつらくても自分が選んだ道だと思うこと。相手のせいにしないこと。私がこれぐらい愛しているのだから、相手が応えてくれないのはおかしい、となっちゃうと変なことになってしまう。でも、自己愛が過剰な今の世の中では、見返りが当然だとなってしまいがちだ。だからジョゼには救われる。
 
 ゲーテの言葉を思い出す。
「いつも変わらなくてこそ、ほんとの愛だ。一切を与えられても、一切を拒まれても、変わらなくてこそ。」

 物語の途中で、理想の結婚をしたはずの妹が、姉のガブリエルに夫の不満を言った時に、ガブリエルが自分のことを振り返って、自分は不幸ではないわ、という場面があった。自分では気づいてはいなくても、心の奥ではジョゼを愛し始めている。
 
「風と共に去りぬ」にもこんなシーンがあった。スカーレットは本当はレット・バトラーを愛し始めているのに、自分ではそれに気づかない。バトラーに辛くあたり続ける。そして、あの事件、別れ。そんなことがふと頭の中をよぎりながら、スクリーンを見つめ続けた。案の定、子供をめぐって事件が起きる。そしてエンディング。ホッとした。

「あなたを絶対愛さない」「俺も愛していない」で始まった二人の生活。ジョゼの深い愛があったとしても、二人がぎりぎり一緒の生活を続けられたのは、大事な場面ではお互いに、お互いに対して誠実であり、嘘をつかなかったからだと思う。わかっていてもできない、でも、やらないといけないこと。

 邦題は残念だ。原題の「石の痛み」だからこそ、「あなたは雨男ね」のセリフが活きるし、「愛を与えて。ダメなら死なせて」というガブリエルの祈りに対する神の応えがある。
マティス

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