Adachi

ハクソー・リッジのAdachiのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
5.0
物語のテーマ性や戦場の臨場感のクオリティに関しては言わずもがな。加えてシリアスとコミカルの絶妙な作劇バランス。前後半に分けられた構成においてのキャラクターの描き方とキャスティング。小道具の配置や、その対比のさせ方。もうどれを取っても隙のない大傑作だと思います。これ。

なにがすごいってこの人の観念的な物事をしっかり『映像』として容赦せず見せてくれる手腕に脱帽。
まるで戦場の恐ろしさ、おぞましさが肌感覚で伝わってくるようでして、それがいかに悲惨で残酷であれ、その目を背けていけない目を背けたくなる光景に対し、特に後半からはこの目と脳内に焼き付けようと必死だったと思う。

純真な目でドロシーに付きまとう真正ストーカーたる信念。自ら志願しながら人を殺さないと確固たる信念。上官や仲間に異端視されながらも諦めない信念。軍法裁判にかけられながらも揺るがない信念。
信念。信念。信念。信念。信念。。。
「正気じゃない」と劇中何人もがデズモンドにそう言うように、人が紙クズ同然に失われていく地獄のなかで、彼の単純一途な行動は尊敬を通り越して最早『狂気』にも思える。きっとこの人強化系だ。

それにしても戦争映画で”何人救った”ことで勲章を受ける映画はあまり観た記憶がないです。例えば、『アメリカン・スナイパー』なんかでも常に戦争での英雄は”何人殺した”かで讃えられていたから。
「お前の信念は日本兵には通用しない」このセリフには同じ日本人として複雑ですし、なんだか色々と凍りついた。確かに彼の信念は当時の日本側では確実に通用しなかったことだと思う。

『戦争反対』という言葉を何百回聞くことよりも、この映画を一度観る方が平和であることの価値を教えられると思います。
どうかメルギブ御大、これからは少しだけスキャンダルやトラブルはお控えなすって、また今作のような傑作を僕らに観せてください。
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