Adachi

ナイチンゲールのAdachiのレビュー・感想・評価

ナイチンゲール(2019年製作の映画)
4.2
アボリジニ人のビリーが「君も食卓につきなさい」と言われて流す涙の理由、、、彼のほとばしるあの一言が痛烈に刺さる。
まるで「まさか映画を見ているお前ら、ありがたいと感謝してるとでも思ってたのか?」とでも言われている様だった。

クレアとビリーが始め忌み嫌い合っているのも紛れもなく差別のシステムなわけですが、そんなシステムの中で、言い合いをしたり、盗みをしたり、その二人で何かを行う度に、ほんの僅かながらコミカルな空気が漂う。劇中楽しいことなんて有るはずがないんだけど、もし在るとすればきっとあそこにしか無い。

正当な訴えを聞き入れてもらえず涙を浮かべるクレアに対し「刃向かった後に泣く、いつもの手か」と口にするイギリス軍人ホーキンスは「うるさくてかなわん」というのが口癖であり、女でも、子どもでも、何でも黙らせるために殺す。
現実でも自分が痛めつけている相手の反応を見聞きすることを異様に嫌がる人っているけれど、それってどういう心の仕組みなんだろうと思う。
文句や叫びや涙がなければ「何も無かった」と同義とすることができるからなのか、もしくは平穏な中に生きてこられた現状を乱すもの全てが煩わしいとでも思っているのか。

印象的だったのは、クレアがビリーにそっと身を寄せ手に触れる場面。ああいうものは整備された町から遠く目の届かない場所にしか存在し得ない。
終盤クレアが自らの得意とする歌で揺さぶりをかけて去る一幕の様に、きっとそれを誰の目にも見える場所まで持って行かなければならないということ。
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