Adachi

朝が来るのAdachiのレビュー・感想・評価

朝が来る(2020年製作の映画)
4.7
とても上質なドキュメンタリー映像のような画作りで、細かい部分を洞察する間もなく一気に画面に引き込まれた。養子縁組というデリケートなテーマを扱いながらしっかりそれぞれのドラマの掘り下げ方も丁寧で、鑑賞前の想像とは全く違う切り口で物語が進行し、広範囲の人間の心に寄り添ったとても優しい映画。

印象的だったのは、ひかりが始めて栗原夫婦の自宅に訪れた場面。一歩足を踏み入れた瞬間に感じる幸せな空気感に彼女自身が飲み込まれて消えて無くなってしまうじゃないかと胸が押し潰されそうになった。
「あなたは誰ですか」って、あんなに弱々しい相手にどうしてそんな無機質な台詞を吐いてしまうのか。親の愛情を受け子どもへ愛情を注げるまともな人間に育った人間がどれほど恵まれているのか。親の愛情を受け子どもを受け入れる気持ちと経済的器が揃っている事がどれほど素晴らしいことなのか。

時系列をうまく操り、子を信じる母親と体裁を守ろうと必死な母親との両極端な対比が意地悪で面白くて、もしも本作を「重い」と感じてしまうのであれば、それはきっとあなたがとても幸せだという事。
どんなに絶望しても、生きていかなければならないのだとしたら、そのために人はどうすればいいのか。一体何が必要なのか。そんな事に対して、なにか希望のようなものをほんの少しだけ見せてくれる。

すべてを否定され奪われたひかりの幸せというものを願わずにはいられない。どんな人間にも光は射し込み、きっといつか『朝が来る』のだから。
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