このレビューはネタバレを含みます
容赦ない剥き出しの描写により、鑑賞者の倫理観を逆撫でしてくる感覚。それらの豊かなイメージによって多様な解釈を許容できる傑作でした。
コインケースだったり、死体建築だったり、本作の異質で不条理な恐怖を成立させる一手を確実に加えているし、本来であれば社会的に区別、排除されるべき狂気というものの境界線が曖昧になっていて、ある意味で人間の根源的な心理が浮かび上がっているのだと思います。
ジャックの猟奇的行動にはジャックなりの明確な理念があり、それは彼にとっての人体構造の捉え方が倫理規範に反した行動理念なわけですが、それは誰もが狂気というものを孕んでいるということでもあり、その意味では狂気を孕んでいない人間などいないのであって、つまりは僕もあなたも実はジャックなのだということ。
その視点からの見たあのラストは、「俺には関係ねぇ」などと言える根拠などあるはずもなく、この世界には「悪=本能」的な存在が溢れかえっているんだよ。という渾然一体としたラース・フォン・トリアーの映像的表現に、最早僕は(ヤバイことに)爽快感すら感じていた次第であります。