Adachi

アルプススタンドのはしの方のAdachiのレビュー・感想・評価

4.9
どうしてこんなにも激しく胸を打たれるのでしょうか、忘れてしまったあの頃の感情が地続きに現在の現実と結合するからなのか。

他者への応援により、その誰かの勝利や成功を願うと共に、その向こうに薄く透けて見えてる「いつかの自分」を応援してる。声援の向かって行くベクトルは抽象化されたまま、その不在の中心に「今の自分(現実)」を、そして「いつかの自分(願望)」の姿を形成していく。その現実が願望へと、そして願望が希望へと成り代わろうとする様は面倒くさくて暑苦しいもの。面倒くさいから美しいのです。

切なくて苦しい可能性の世界に閉じ込められていたとしても、人は自己を構築することはできるし、その現実の中で言葉(声を出して応援)を吐露することで、自己を表現し、自己を肯定し、自己を昇華し、アイデンティティを獲得できる。そんな感覚が点と点を繋ぐスピードでエモーショナルに加速していき、強烈かつ爽やかに押し寄せてくるわけでして、紛れもなく「いつかの自分」である現実の自分は、涙を堪えることはできなかったし、今も映画を思い出し半ばウルウルしながら書いてます。

本作の面白味は、野球部を応援している四人のことを、実は本作を鑑賞している観客である我々が応援しているという異様な構図にあると思う。初めは斜に構えて鑑賞している観客が、次第に胸を熱く踊らせ、声に出さなくとも彼女たちを応援してしまう感覚。ありきたりな言葉だけど、大人である自分が「しょうがない」なんて言ってる場合じゃないなと。もうちょっとあの頃に思い描いていた「いつかの自分」の様な立派な大人になろうと思った次第です。
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