KouheiNakamura

シークレット・オブ・モンスターのKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

4.3
悪意のめざめ。


俳優として活躍しているブラディ・コーベットが初めて監督に挑んだ問題作。1919年、第一次大戦の戦後処理に追われるフランスで一人の怪物が目覚めようとしていた…。
原題は「The Childhood of a Leader」。監督が着想を得たサルトルの短編小説『一指導者の幼年時代』から取られている。

ヴェネチア映画祭に出品され、賛否両論を巻き起こしたこの映画。日本でも評価がスパッと分かれているこの作品、僕はどうだったかといいますと…。
ハッキリ言います。超大好きです。が、かなり観客を突き放した作りなので受け入れられない人がいるのもよく分かります。物語の大半が暗い屋敷の中で展開するので空間的な広がりがないし、不協和音だらけのおぞましい劇伴も人によっては無駄に大仰に感じられるかもしれません。また116分という上映時間中ほとんどドラマらしいドラマはありません。表面上は美しいが歪んだ性格を持つ美少年とその家族の物語がゆっくりと綴られるだけ。こんな映画の何が面白いの?と言いたくなる人が多いのも頷けます。
確かに目に見える範囲ではほとんど何も起こっていないように見える映画です。…そう、目に見える範囲では。

この映画、いわゆるメタファーがいたるところに仕掛けられているためにその意味を観客が読み取っていくという作風なんですね。なので、一見すると少年が階段を登っていくだけの映像になんとも言えない不穏な音楽を流す。こういった演出をすることで、観客に想像力を働かせて観るように促していると。明確な回答があるわけではなく、あくまでも観る側の解釈に委ねている。僕はそういう映画が大好きなんです。

また、夜の闇を活かした美しい映像や全編に流れる狂気の音楽も完全にツボでした。
そして僕なりのこの物語の解釈を言わせてもらえるならば、この話は少年が自分の運命から逃れようとするが結局追いつかれてしまう話ではないかと思っています。
一風変わった映画が観たい方、想像力を働かせたい方にオススメです。
KouheiNakamura

KouheiNakamura