心臓外科医とその家族、そしてそこに侵食していくある少年の物語。
「籠の中の乙女」「ロブスター」を観てすっかりファンになってしまったヨルゴス・ランティモス。
今回は「アウリスのイピゲネイア」というギリシャ神話をベースにしているが、よく考えるとこれまでのヨルゴス・ランティモス作品も、どこか神話っぽさがあるんだなと感じた。
神話ベースだからか、これまで観た2作と比べると、シリアスやホラーの要素が強い。
それでもやはり監督が一貫して描き続けているのは、人間の愚かさや滑稽さだ。
耳障りな程に不安を煽りまくる音楽はどうなのと思ったが、無音のシーンになったときに「ああ、このためか」と納得し、痺れた。
カメラワークは相変わらず素晴らしく、冒頭の衝撃から重厚さと不穏さが途切れることはなかった。
そしてやはりこの作品を語るうえで外せないのが、バリー・コーガンの怪演だろう。
彼の演技は初めて見たのだが、これまでの出演作を全部観たくなるほど素晴らしかった。
そしてやはりコリン・ファレルの存在感も素晴らしい。
彼の困り顔はヨルゴス・ランティモス作品にはもはや欠かせない。
とても難解なようで、全身に突き刺さってくるような作品。
劇場が明るくなったとき、自分が立ち上がれるのか不安になった。