行く先を知る者と知らない者とが織りなす、ある旅の物語。
イランの巨匠ジャファル・パナヒの長男であるパナー・パナヒの長編デビュー作と知る以前に、この邦題とポスターを見た瞬間絶対観に行くと思った作品。
とても、とても良かった。
突如始まる家族4人と犬1匹の旅。
行く先を知らないのは、まだ幼い無邪気な次男。そして、観客である私たち。
一見すると楽しい家族旅行のようなその旅路には、時折不穏な空気が混じる。
そして旅が終わりに向かうにつれて、その空気は質量を増し、色を濃くして行く。
彼らはなぜ旅をしているのか。そして、どこへ向かっているのか。
その答えは明確には描かれない。
それはこの作品のスタンスでもあるかもしれないが、同時に「描くことが出来ない」という背景もある。
遠い海の向こうにいる私たちは、監督の伝えたいメッセージを全て受け取ることはできなきかもしれない。
それでもこの映画に触れることはとても意義があるし、純粋にひとつの作品として観てもその価値は十分にある。
そして厳しい検閲をくぐり抜けるための試行錯誤から生まれる表現は、結果的に映画史に残るような素晴らしいシーンになっていると思う。
これからも彼なりの世界でイランのことを伝えて欲しいし、それを受け取り続けていきたい。
邦題つけた人、天才。