なべ

スプリットのなべのレビュー・感想・評価

スプリット(2017年製作の映画)
3.9
多重人格スリラーとしての評価は低い。実は別の作品と話が繋がってましたっていうオチは、クリエイターが罹りやすい病みたいなものか。

以上は初見時のレビューの要約。ミスター・ガラスを見終えた今、本作の評価は大きく変わる。以下は再鑑賞後のレビュー。

分裂症(解離性同一性障害)の患者が生み出す別人格は、IQも違えば、腕力にも差異があるのだという。中には高血圧や糖尿病など、肉体を変化させる例もあるらしい。ではそうして生み出された別人格が超能力者だった場合、実際に超能力は備わっているのか。思い込みで人体は未知の領域へと変化するのか…。
そんな胸熱なテーマをアンブレイカブルと地続きの世界観のなかで描いた作品。ああ、そういうテーマなら前のレビューは撤回。そんな話なら俄然おもしろく観られる。そうか、多重人格者のクライムサスペンスではないんだな。マカヴォイがいくつもの人格を演じ分けててすごいとかいうのは的外れもいいとこで、そこはついでというかおまけなんだな。公開時はそうとは知らず、中途半端な駄作扱いをしてしまってごめん。ぼくの読解力が足りませんでした。
しかし、ミスター・ガラスを観る前と後とでこんなに見え方が変わるとは。シャマランの秘密主義は悪い方に働いてるんじゃないか? 最初から「アンブレイカブルの正当な続編」「最強のヴィランの誕生譚」と謳った方がいいと思うのだが。それがわかったからといって興をそがれるような話ではないのにね。

基本、シャマランはアクションが撮れないので、アクションに至るまでをじっくり描くスタイルにどうしてもなる。アンブレイカブルも同じだ。クライマックスのアクションはビーストの誕生を見せることと、ケイシーが抱えている問題(=虐待)を見せることが目的。「え、もう終わっちゃうの?せっかく出てきたのに?なんで?あっさりし過ぎてない?」と思った過去の勘違いを反省した。もっとも多重人格者のサイコスリラーだとミスリードされてたのでその勘違いはフェアだと思うけどね。
このシリーズが画期的なのは、アメコミの世界観を現実にもってきた場合、ヴィラン(ヒーロー)はどういった存在なのかって着想。謎の宇宙線を浴びたわけでもなけりゃ、進んだ文明を持つ星からやってきた異星人でもない。シャマランスーパーヒーローユニバースのチャプター2ではヴィランが悪の力を得る過程やエビデンスが不安と緊張のなかで描かれているのだ。
多重人格はその要因の一つであって動機ではない。だから23の人格のすべてが出てこなくてもOK。犯人が捕まらなくても全然OK。実は過去の作品の続編でしたって種明かしは衝撃のエンディングとなるのだ。
さあ、役者は出揃った。次はヒーロー、ヴィラン、仕掛け人の三つ巴の戦いが繰り広げられるはず!と高ぶる気持ちは、ミスター・ガラスであっけなく裏切られるのだが(いい意味で)、三部作の真ん中としてスプリットはその役割を充分果たした良作なのだと訂正します。
なべ

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