磔刑

ドリームの磔刑のレビュー・感想・評価

ドリーム(2016年製作の映画)
1.5
「クロンボ数学隊 vs NASA団」

有人宇宙船の開発とそれに伴うサクセスストーリー、黒人差別問題、私生活の幸せ、この三点から物語は成っているのだが黒人差別の描き方が自分の口に本当に合わなかった。


特に違和感を覚えたのがキャサリン(タラジ・P・ヘンソン)が黒人女性用のトイレがない事に激怒しするシークエンスだ。キャサリンの叱咤に身につまされた白人達が「いやー悪いことしたなー」とか「えっ?黒人ってこんな劣悪な環境で働かされてんの?」みたいな空気を出すのだが、その反応や考え方の変化は現在に生きる観客の視点であってあの時代のリアルなリアクションじゃないよね?もしあの時代に全く同じ環境でそんな事を黒人女性が言ったなら良くてクビ、悪けりゃ袋叩きにあった挙句全裸で道に放り出される。そんな訳ないと思うかも知れないがこの時代のましてや南部の黒人を取り巻く環境はそれ程劣悪極まり無いものなのだが、あんなエキセントリックな演出で「黒人と白人の気持ちが一つになりました!」みたいな幼稚な描き方をすれば肝心な問題の根深さや時代背景を的確に描写する事など不可能だし、むしろ黒人差別自体を軽んじられるに他ならない行為だ。
その直後のトイレの表札をぶち壊すシーンなんかはリアリティのカケラもないし、そんな事で解決するなら黒人も苦労せんわ!そもそも当然の権利、正当な扱いだと思っている加害者側に罪の意識など存在しないので反省したり、改める訳がないので白人側が突然目を覚ましたように「間違ってました!」なんて事は起きようがない。それに差別問題とサクセスストーリーが同一視されるような物語構成にも問題があるし、裁判所で判事を言いくるめるシーンも同様だ。この手の黒人差別を題材にした映画は近年特に擦り倒されてるジャンルの中でこの作品をわざわざ選ぶ必要性は感じないし、サクセスストーリーとしてなら中途半端、黒人差別は信憑性が乏しく互いに足を引っ張り合ってる様に感じられる。

トイレ破壊のシーンから演出が鼻に付き、その後のロケットに纏わる話やらNASAの黒人職員の待遇が改善される等、何もかもがきな臭く感じられて全くと言っていい程内容が頭に入って来なかった。黒人が社会的地域を得る描写も有能!天才!それを見たい白人驚愕!みたいな日本の外国下げ日本上げみたいな時代錯誤のバラエティ番組的な演出で肌の色の違い故に正当な評価をされない問題を逆に軽んじる安直な演出じゃないか?この話の大部分がリアルなら現実は小説より奇なりを体現した逸話ではあるが、映画内で大幅に脚色された物語なら誇張が過ぎて全く胸に響かない内容である。(そもそもオープニングシークエンスの『あずまんが大王』のちよちゃんばりの超ステレオタイプな天才描写の時点で自分には合わないなと感じてはいたが)

こんな内容でも黒人がカタルシスを感じ満足感を得れるなら局地的需要のあるエンターテイメントとしては容認はできても、白人がこれを観て黒人の気持ちを分かった気になってるなら片腹痛い。極東の島国のイエローからすればエンタメ映画として単純につまらないし、問題提起としては意味を成していない只それだけだ。

良い点を一つ挙げるならプロポーズのセリフはめちゃくちゃカッコ良かったので今後シチュエーション的に使う機会があれば拝借したいと思います。
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