マヒロ

否定と肯定のマヒロのレビュー・感想・評価

否定と肯定(2016年製作の映画)
4.0
アメリカ人歴史学者のデボラ・リップシュタット(レイチェル・ワイズ)の大学の講義に、デヴィッド・アーヴィング(ティモシー・スポール)という男が現れ、突然彼女が自身を中傷したと糾弾する。リップシュタットは著書の中でホロコースト否定論者であるアーヴィングを例に挙げていたが、それを名誉毀損とし訴訟にまで発展していく。イギリスで訴訟を起こされたことにより被告側であるリップシュタット側に立証責任を負い、ホロコーストは存在しなかったとするアーヴィングに対し「ホロコーストの実在」という大きなテーマを扱うことになる……というお話。

実在の訴訟をモチーフにした作品で、ホロコーストの実在について否定派と肯定派の戦いを描いている。
実話がモデルなだけに結果がどうなるか…というスリリングさは無いが、いかにホロコーストというものが「あった」ということを証明していくか?という部分で、原告のアーヴィングだけでなくリップシュタットと弁護師団の間でも意見の食い違いが出てきたりする。相手を打ち負かすようなやり方を取るか確実に勝てる裁判を取るか……という選択は裁判ものならではの面白さだった。

劇中でも出てくるが、そもそもホロコーストのあるなしを語るということ自体がナンセンスなことであり、アーヴィングは学者的な目線というより自身の思想の偏りをぶち撒けているようにしか思えない。そもそもこういうこと言い出すヤツに大体共通して性差別・人種差別もセットでついてくるもので、アーヴィングはその権化のような男。とことん憎たらしい人間ではあるが、割と裁判ではボコボコにされている感じで、やたら勇んできた割には全く理論武装してこずタジタジになっているので、全然相手として手強く見えないのが難点と言えば難点。
実際のところどうだったのかは分からないが、リップシュタット側の弁護団がダイアナ妃の裁判などを担当したという優秀な人材揃いだったのに対し、アーヴィングは自信があったのか単身弁護士も付けずに乗り込んできているので、そもそもその時点で見えている戦いだったのかもしれないが。

主役とも言うべき二人よりも印象に残ったのがリップシュタットの弁護士であるランプトン(トム・ウィルキンソン)で、温和な紳士らしい一面もあれば弁護士としてあくまで淡々と仕事をこなす冷徹さもあり、なかなか尻尾を掴ませないような雰囲気がある。観客としてもリップシュタットとしても信用できるかどうか曖昧なところがあるが、その人間臭さとプロとしての割り切りの線引きがしっかりしているところが格好いい。

アツい法廷バトルというよりは、感情論で突撃してくる相手を正しいやり方で華麗に丸め込む鮮やかさを楽しむような映画かも。

(2021.143)
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