八木

タイム・ダイレイション-死のベッド-の八木のレビュー・感想・評価

4.0
 予想外に面白かったです。このタイトルとか、あらすじ読んでパイオツとスプラッタをいただけたらそれで及第点だと思ってしまいそうなもんですが、もちろんそういった仕掛けがありつつも、登場人物の背景と、そこから浮かび上がるテーマがちゃんと設定されている映画でした。
 多分、下がりきったB級丸出し映画を観るときの構えで受けた分判断ガバガバなんだろうなと思いつつも、ちょっと感動すらできるくらいには筆致が丁寧でよくできてると思いました。

 ホラーなんだから、「ベッドを降りたら死ぬ」という理不尽なつくりにヤボなこと言うつもりはありません。内蔵や血液でウッヒョーとなれるので安心してください。この映画は、理不尽に若者がひどい目に遭うというふうに見せながら、実は「誰でもない、自分で一番理解している自分の罪」を、これからどう向き合っていくかという、人生についての問いかけを行っています。その文脈が、取ってつけたようなものではなくて、あくまで自然に、会話の中で漏れ出てきて、その裁定をベッドが下します。
 だから、ホラーやスプラッタとしての仕掛け以上に、自分を安易に救おうとしたり、はじめから向き合わなかったりする心の動きがスリリングであって、最後に前を向くある登場人物と、震えながら諦める登場人物に、人間味を感じて心が揺さぶられるのです。

 無理やりな展開とかはあるんですよ。降りたら死ぬルールの把握が早すぎるとかさ。ベッドにいる段階からほぼ殺しにかかってるのとかさ。
 それがすべて気にならないほど、この映画が持つ罪と報いの表現と、その結末には満足感が強くて、好きな映画になりました。
八木

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