ベイビー

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版のベイビーのレビュー・感想・評価

4.7
台湾映画。上映時間4時間。僕がFilmarksの住人でなかったら、見向きもしなかった作品。

正直、今も余韻を引きずったままで、何から話せばいいのかまとまっていないのですが、まず、この作品の説明をすれば、1960年代初頭、当時思春期だったエドワード・ヤン監督が、台北で実際に起きた事件に衝撃を受け、その事件をモチーフに作り上げた映画です。

最初に僕が受けたこの映画の印象は、画角の美しさというのでしょうか、画面の構図の美しさが終始印象に残る作品でした。

暗闇からのバスケットボール。父親が釈放された時の出口から見える暖かい陽射し。小四と小明がひそひそ話す時の壁に滲む二人の影。あげればきりがないのですが、淡々と流れる4時間の話の中で、終始飽きずに場面場面が深く印象に残るのも、この美しい画面の力のおかげだと思います。

それと合わせて、音楽の使い方が凄く気になりました。この映画は、場面を盛り上げるような音楽はもちろん、効果音すら使わず、彼らの生活の中から聞こえる音楽だけを使用しています。無駄なことは一切しない。だから作品を観ている側は、フラットな気持ちで登場人物たちと向き合えるのです。

物語の中で「戦争と平和」というキーワードが、二回ほど出てきました。僕は無学なので「戦争と平和」の内容を全く知りませんでしたが、簡単に説明すると「ナポレオンによるロシア遠征などの歴史的背景を精緻に描写しながら、ロシア貴族の3つの一族の興亡をピエール・ベズーホフとナターシャの恋と新しい時代への目覚めを綴った群像小説」らしいです。

「ロシア遠征」は、この事件そのもの。「ピエール・ベズーホフとナターシャの恋」は、小四と小明の関係。「新しい時代への目覚め」というのは、中国本土から移り住んだ人々の今後。
この物語は、その混沌とした時代から生まれる、やり場のない少年たちのエネルギーを事細かに綴った群像劇。群像がもたらす作用反作用の結果、人は悲劇を生んでしまいました。

この映画は4時間にも及ぶ長編。うち、普通の映画一本分を使って、事細かに人物像を描いています。だから終始派手な演出が出てこないので、見る人によって退屈だと思うかもしれません。しかし、その丁寧な人間描写こそがこの映画の伏線。それを回収するクライマックスの30分はお見事! 圧巻です。

実在する事件をもとにした映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「エレファント」や、ベネット・ミラー監督の「フォックスキャッチャー」などの素晴らしい作品がありますが、こちらも引けを取らない見事な秀作!
4時間はさすがに長かったけど、観れて本当に良かったと思います。

映画の出会いに感謝。Filmarksの住人で良かったです。
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