新潟の映画野郎らりほう

ムーンライトの新潟の映画野郎らりほうのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.0
【月桂下の月経】


扉の映画。

暗闇に潜んでいたリトルに「扉から出て行こう」と呼び掛けるファンが開け放つ ドア外からの眩い入射光。
母親の元へ送り届けた後、然しその眼前で冷徹に閉ざされる玄関扉。
鍵が無いと言いつつ 実際には施錠などされていない扉。
校内にある幾つもの扉を叩き開けた末に行われる暴力行為。
そして最終盤、開閉報せる鈴付いた飲食店の扉は“透明”である…。
状況/関係性/心象、そして予兆と希望 - 殆ど言葉発す事無き主人公であるにも関わらず、それらを容易に諒解させるモチーフ反復に依るその映画的語りが精良だ。


主人公少年シャロンの物語でありながら、ファン(マハーシャラアリ)の描かれぬ少年期をも想起させる構成の妙趣。
タイトルで標榜される主題系〈月桂〉をはじめとする数々の灯りの美しさと、それらが内包する蠱惑で可憐しい寓意(特殊条件下の 稀覯で儚い刹那)が胸に迫る。


月桂の下に 男が手にする刹那の月経(女性が持つ男性と結ばれる特権)-その奇跡。その静謐な詩性、美性、刹那性に恍惚する。




《劇場観賞》