坂本龍馬の作品情報・感想・評価

「坂本龍馬」に投稿された感想・評価

1920年代後半の京都で撮影された時代劇は、当時の映画状況にて世界的水準に達していた。二川文太郎の『雄呂血』や、伊藤大輔の『長恨』、『忠次旅日記』、『斬人斬馬剣』の僅かに残された断片をみれば、チャンバラの殺陣の創意工夫や、移動撮影、クローズアップなどキャメラの視覚技術、そしてワンショットの構図や編集によるカット・イン・アクションがもたらす活劇の雄弁性。これらすべての質の高さに驚嘆させられる。

本作『坂本龍馬』は、1928年、昭和天皇の即位を祝して、「御大典記念」と銘打ち製作された大作である。阪東妻三郎が取り組もうとしていた『霊の審判』が製作中止となったため、『鼠小僧次郎吉』以来半年ぶりの主演に就き、しかも幕末の英傑である坂本龍馬を演じるとあって、大ヒットを記録した。製作の企画以来、脚本家が数度変更され、林長二郎(長谷川一夫)作品の監督として知られる冬島泰三の脚色を得て難産の末、ようやく実現したといわれている。

監督の枝正義郎は1910年代から映画製作に携わり、主にカメラマンとして活躍。トリック撮影の名手として知られ、21年から技術研究のために渡米するなど、20年代後半京都における視覚効果の時代を底支えしたことが想像できる。その痕跡をもっとも感じるのが、映画中盤のチャンバラシーンである。敵屋敷に乗り込んだ阪東妻三郎の背後を、キャメラが貼りつくように移動撮影を行い、観客の視線が阪妻の視線に同化するような臨場感がスクリーンにゆきわたり、その後の近藤勇との決戦にも胸が高鳴る。

また、阪妻や嵐寛寿郎の敵役として活躍した春日満が佐々木只三郎役を好演しているのも見どころである。ちなみに、Filmarksでサムネイルとなっている画像は、1995年に真田広之主演で放送されたドラマスペシャルのものであり、本作とはなんら関係がない。