櫻

退屈な日々にさようならをの櫻のレビュー・感想・評価

退屈な日々にさようならを(2016年製作の映画)
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私たちは、いつの間にかテレビ番組や漫画や本や映画で植え付けられた、夢やら希望やらを目指して生きてしまっている、恐らく。必ずしもそんなものを追わなければならない理由も価値もないのに、疑うことなく容易く手に入らないそれらを、無い無いと言いながら。実際はといえば、夢とも希望とも遠い日々を淡々と過ごしている人の方が多いのではなかろうか。だからこそ、本作は身近なものに感じられた。平坦ながらも、それぞれの生身の人物の日常が描かれていた。本作のテーマでもある「死」。死は遠いものではなく、誰の隣にも存在するもの、日常の地続きにあるもの。私は高1の夏に、自宅で自殺してしまった父親のことを思い出した。普通に授業を受けていたら、いきなり呼び出されて父の死を告げられた時のあの沈黙の長さは今でも鮮明に覚えている。あの夏はとにかく泣いた。自分の感情でぐちゃぐちゃになった。けれども、いつからか父はもう限界だったのだろうなと思えるようになった。今だって哀しいけれど、そうやって受け止められるようになった。どこか私の行けない遠い場所に行ってしまっただけなのだとさえ思う。そんな私のことはもちろん、観た人ひとりひとりの淡々とした日常をやさしく受け止めてくれる作品だと思った。(2018年3月3日の感想)


やっぱり優しかった。長くてきれいな髪を撫でるあったかい風みたいだった。肯定も否定もせずに去っていくだけなのだけれど、それがとても心地よかった。人の死は哀しいことだ。大切な人やもっとよく知りたいと思っていた人ならば、なおさら。自ら消えていった人が何を考えていたのかなんて分からないけれど、分からなくても脳内ではその人のことがあって、けしていなくなっていない。そんな消えたりしないことの一筋の光がとても綺麗だった。(2019年9月3日に観直した感想)
櫻