エミさん

タリーと私の秘密の時間のエミさんのネタバレレビュー・内容・結末

タリーと私の秘密の時間(2018年製作の映画)
2.4

このレビューはネタバレを含みます

ワンオペ育児を絡めた社会風刺がテーマの作品。先入観が無くても脚本がしっかりしているし、女性にエールを贈るテーマであるのは一目瞭然であるが、育児経験の無い若い世代には、共感し難いところがあるかも知れない。

子育ては、昼夜の区別がなく、予測できないことの連続である。子供が何人居るとか、健常の有無に関わらず、育児は母親一人ではこなせない大変な仕事だ。
高度経済成長の頃の日本には、助け合い精神は当たり前だったし、専業主婦も沢山居たので、経験豊富な世話焼きおばさんみたいな人が、近所のあちこちにいてくれたお蔭で、孤立する人は少なかったのだが、資源豊富で国土も広い先進国米国では、そんな頼れる人達が近所に住んでいる幸運は低く、更に自立した人がもてはやされる風潮が出て来た所為で、専業主婦になった途端に、情報が入らず社会から孤立して奮闘せざるを得無くなってしまう。加えてマーロのように頑張り屋さんだったら、なお、自分の事は自分で解決すべきだ、と思って追い込んでしまうのであろう。

ナイトシッターのタリーが、初めてマーロの家にやって来た時のシーンは、マーロの切羽詰まった大変な現状が色々伝わってくる。

「ダンナさんは何をしてるの?手伝ってくれないの?」

「仕事して帰ってきて、子供の宿題をみた後は、ゾンビを殺して寝てるわ」

ゾンビネタ好きの私は「ここにもゾンビハンターが居た〜」
と爆笑してしまいましたが…(余談)。結婚して10年近くが経過し、完全に互いの役割分担が出来てしまい、夫婦の熱も冷めきっていることが伺えるやり取りである。

それに劇中で、ちょいちょい『人魚』に触れたシーンが出てくるのも気になる所。TVから流れるニュースの話題だったり、マーロが水に溺れる夢にはタリーが人魚になって助けに来たりもする。何故、人魚なのかは分からなかったものの、マーロが現実から逃げ出したくてたまらないということのメタファーを表現しているんだろうなぁと思いました。

現代社会では、おせっかいは嫌われてしまう。でも、人はひとりでは生きていけない。社会の歯車からこぼれかけている人が居たら、タリーのように助けてくれる存在は絶対に必要である。実は身近な人がマーロの様に困っているかも知れない。タリーみたく完璧じゃなくてもいいと思う。周囲を気にかけられる人がたくさん増えたら、過ごしやすい環境になっていくんじゃないかという希望を感じました。