umisodachi

タリーと私の秘密の時間のumisodachiのレビュー・感想・評価

タリーと私の秘密の時間(2018年製作の映画)
3.8
シャーリーズ・セロン渾身の一作。プロデューサーにも名を連ねているし、相当な増量をして臨んでいる。

40歳を過ぎたマーロは、2児の母。第二子である息子は過敏なタイプで、子育てに悩みは尽きない。そんな中、予定外の妊娠。優しいが気の利かない夫と、決して豊かとはいえない経済状況の中、出産する。家事に育児に新生児の世話に追われ、ほとんど睡眠時間が取れずに荒んでいく生活に疲れ切ったマーロは、夜間だけ赤ん坊を看ていてくれるという"ナイトシッター"を頼むのだが……。

こんなにリアルな産後を描いた作品って、なかなかないんじゃない?というくらいリアルだった。私には子供がひとりしかいないが、それでも産後2か月くらいはほとんど眠れずにちょっと感覚がおかしくなった。なにを隠そう私にも、ちょうど1か月が経って実家から自宅に戻った後、泣き続ける息子を胸に抱いたまま何も考えられなくなっている自分に気付き、「やばい」と気付いて実家に舞い戻った経験がある。睡眠、大事。

というわけで、そんな経験をしたことがあるかないかによって、マーロを「普通」と思うか「病んでいる」と思うか分かれそうだなと思った。いや、決して普通の状態ではないのだが、誰だってあんな感じにはなる。特に、あんな風に夫が「協力しているふり/理解しているふり」だけしている状態では、孤独でしかない。あれだけ搾乳してるんだから、お前も1回くらい夜間の授乳しろっつーの!

物語の核は、謎めいたナイトシッターであるタリーの正体は?ということになるのだが、これはかなり最初の方で想像がついてしまう。私は2晩目が明けたときに分かった。家事/育児をしているからすぐに気付いたのかもしれないが、かなり多くのヒントが提供されているし、そもそも用意されている種明かし自体にそこまで意外性がない。重要なのはそこではないのだ。

出産したからといって、臨月ではちきれんばかりになったお腹がすぐに引っ込むわけではない。授乳も痛みを伴う。メイクする気力も湧かない。夫、気づけよ。見てればキツいの分かるだろ!バカなの?ちょっとは自分で考えてよ。

夫を演じているロン・リヴィングストンがSATCのバーガー役(キャリーの歴代彼氏の中でも、かなり印象が悪いキャラ)だったことも手伝って、マーロの夫へのイライラが増幅していってしまった。というか、おそらくこの作品は【男性に観てほしい】という思いが強く込められている気がする。

シャーリーズ・セロンの演技は文句なしで素晴らしい。最初の疲れ切った母親から、徐々に元気を取り戻して生き生きとしていくところ、ラストの表情など、彼女の演技だけでも観る価値がある。また、タリー役のマッケンジー・デイヴィスも非常に魅力的。ファッションが最高に可愛くて、真似したくなる(痩せねば)。

また、セリフがいちいち気が利いていて軽やか。所帯じみた題材に無理やりファンタジーっぽさを加えたことで陳腐に転びそうなストーリーを、グッと上等なものにしている。上手い。
umisodachi

umisodachi