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サーミの血のLATESHOWのレビュー・感想・評価

サーミの血(2016年製作の映画)
3.7
被差別から逃れるために民族衣装を焼き捨てる彼女は
髪を劇薬で焼いて直毛にするマルコムXや
自らをどこの誰でもない根無し草と名乗る「GO」の在日北朝鮮人である主人公らと
同じ踠きを感じた。
人の優劣を脳の作りで決められてたまるか。
顔立ちを尖がった測定器具で無作法に計られ、強制的に全裸で撮影される恥辱。
ふざけるんじゃねえよ、動物じゃねえんだぜ。
そう憤ったあとに、スウェーデンの学園での体操のシーンが痛切に胸に刺さる。
ルーツを捨てた彼女が
妹を慰める為に歌っていた民謡を
ねえ歌ってよと無邪気に頼む上流階級の女性。
それは差別に憤りながらも
無意識に私達の中に潜む差別。
ルーツを捨てる苦悩に揺れながらも
私は見世物なんかじゃない!と
居場所を求めて
しぶとくもがき抗い続ける
タフな彼女の凛とした横顔。
この、決意を秘めた横顔が
映画をぐいっと引っ張り続ける。

夜明けの山河に立つ老婆の横顔。常に毅然としていた瞳に感傷が浮かぶ。
どうして彼女は故郷を捨てて衣装も焼き捨てたのに
父の形見のナイフは持ち続けたのだろう。
どうして見捨てた妹の亡骸に
そっと一人許しを請うたのだろう。
もし、自分が
映画の主人公に、被差別対象の主人公に
言葉をかけるとしたら何を言えばいいんだ。
故郷を捨ててまで自由を求めた人達にかける言葉は一体何だ。
袖を掴んで縋る人達に。
今の言葉を取り消して!と詰め寄る人達に。
エライ人達は口籠ってばかりいる。
考えろと映画はいつも俺に訴える。

雪解けの泉で水浴びをする彼女達が
その時だけ北欧の自然に溶け込んでいて眩く映える。
くせえと笑われた自分の臭いを洗い落とす為の水浴びでも。
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