小

オリーブの樹は呼んでいるの小のレビュー・感想・評価

オリーブの樹は呼んでいる(2016年製作の映画)
3.0
名作の誉れ高いビクトル・エリセ監督の『エル・スール』にヒロインの少女エストレリャ役で出演していたイシアル・ボジャインが監督ということで鑑賞。脚本はケン・ローチ作品で知られるポール・ラバーティで、『わたしは、ダニエル・ブレイク』も彼の手による。

ということで、社会派な内容が予想される本作。理想と現実を前に分断された家族の再生物語とグローバル資本主義の批判という、2つのテーマがあり、これをどうまとめるかがポイントだと思うけれど、自分的には上手くいっているようには感じられなかった。

終始ボンヤリしている祖父と、彼を世話をする20歳の女性アルマ。2人は樹齢2000年のオリーブの樹を家族同然に大事にしていたが、アルマが少女の頃、農園の経営難から、父が反対する祖父に黙って売ってしまった。その日以来、祖父は口をきかなくなり、食事もろくに喉を通らなくなる一方、アルマは家族に反発するようになった。

大人になったアルマは、衰えゆく祖父を救うためには樹を取り戻すしかない、と思い詰める。樹を伐採した業者から手がかりを得てドイツにあることを突き止め、変わり者の叔父と同僚を嘘で丸め込み、お金も計画もないまま無謀な旅に出る。

ここまで、 グローバル資本主義が庶民を苦しめているという描写がないではないのだけれど、ずるい大人の父と強情で感情的なアルマの対立の方が目立ち、あまり入ってこない。

だから、生きるために現実的にならざるを得ない父と純真無垢な心の娘というように、理想と現実の葛藤をどのよう折り合いを付けいてくのか、という視点で見てしまう。

一方で、樹を買ったのが、環境破壊をしているドイツの資源会社で、買った目的がイメージを良くするためだとか、叔父さんがあるものをボコボコにするとか、アルマ一行の行動は暗にグローバル資本主義との対決になっている。

けれどアルマにその自覚はなく、感情的に爆発するだけだから、「何なのこの娘は」と叔父さんに同情してしまい、せっかくのグローバル資本主義ボコボコシーンもアルマに対する憤りの方が勝ってしまう。

ドイツから戻ったアルマと父の関係も、大きなショックがあったとはいえ、父の変化に今一つ説得力が感じられず…。それに、ガス抜きシーンがあったとはいえ、根本的な経済問題は何も解決してないよねと思うのに、庶民の方だけがまた一から出直そうみたいなことで良いのかしら、と。

ビクトル・エリセ監督は少女の成長にスペイン内戦のトラウマを上手く合わせて描いていたけれど、本作は家族再生、グローバル資本主義との対決のどちらか一方に絞って描いた方が良かったのではないか、という気がする。

●物語:1.50(3.0×0.5)
・良いことを言っているのだけれど、上手く言えていない。

●演技、演出:0.90(3.0×0.3)
・アルマがハチャメチャなのは悪くない。伯父さんも嫌いじゃない。でもそれがあまり生かされていない。

●映像、音、音楽:0.60(3.0×0.2)
・ドイツの会社のロビーに飾られたオリーブの樹(レプリカで実際には伐採しいない)が案外美しい。
小