神戸典

ナミヤ雑貨店の奇蹟の神戸典のレビュー・感想・評価

ナミヤ雑貨店の奇蹟(2017年製作の映画)
4.5
小説が元ということもあり、ストーリーの構成が非常に精巧で、それはパズルのピースが徐々に空白を埋めていくかのようにクライマックスで一つの答えにたどり着いた。
一度見ただけでは時間軸や人間関係を理解するのが難しかったが、『ラブ・アクチュアリー』や『ニューイヤーズ・イブ』よりは人間関係がわかりやすかった。
いくつかの伏線も最後には全て回収され、温かいミステリー作品となっている。

とある強盗からナミヤ雑貨店に逃げ込んだ敦也たちはそこで投函された一枚の手紙を手にしたところから奇妙な体験をする。
その奇妙な体験のきっかけとして、出ることのできない商店街を彷徨ったり、まるで誘い込むかのように行く先々の街灯が点灯したりする表現はまるで宮沢賢治の作品における異界へ行く際のトリガーと似ている。

3人がいる店内は現在でシャッターの先は32年前の世界。
店長がいる店内は32年前の店内でシャッターの先は3人がいる現在。

お互いをつなぐ原因となっているのはナミヤが遺言に記載した33回忌に1日だけナミヤの悩み相談を復活し、かつて相談した人に自分の返答がみんなにとってどうだったかを知らせて欲しいという願いであった。
その33回忌が丁度敦也たち3人が店内に入ってきたその日だった。
一人一人の悩み相談、そしてその人生が巡り巡ってナミヤと丸光園を繋ぎ、敦也たち3人とも関係のある人となっていた。

作中でも敦也自身が言っているが、人の人生は他人が簡単に変えることはできない。
その言葉通り、ナミヤの返答で人生が変わったのではなく、その返答を受けて自らの決意で進んだ結果であり、それはナミヤの力ではなく相談者一人一人の自分の選択である。
同じように、これまで敦也は自分を捨てた親を憎み、親のせいで自分が今の状態にあると考えていたが、最後の表情と足取りから、
親のせいにせず、そこから自分がどう決断し進むかが大切であるという答えを見つけている。

大切なのは頼りになる人やアドバイスをくれる人を待つのではなく、自らの意志でその先の未来を歩むかであるというメッセージを感じた。
役者の演技も素晴らしく、林遺都の無口で少し変わったような姿はどこにでもいそうな雰囲気を作っている。そうかと思えば子供を助けるシーンでは下敷きとなり意識が遠のいていく表情はとてもリアルだ。
西田敏行の言うまでもない愛情のこもった優しい声や表情は作品において大切な基盤となっている。彼のような人柄だからこそみんなが相談してくるのだろう。
そして山田悠介の愛を渇望する弱い姿とそれとは真逆の不安定だが1人の人間として生きようとする力強さがとても素晴らしかった。

作品の挿入歌やエンディングもとても素晴らしく、優しくて元気をもらえるようなそんな作品に仕上がっている。
神戸典

神戸典