マヒロ

散歩する侵略者のマヒロのレビュー・感想・評価

散歩する侵略者(2017年製作の映画)
3.5
地球を侵略しにくる宇宙人は数多くいれど、その方法が「人間の概念を奪う」というのはなかなか斬新。侵略という題材の割には出てくる宇宙人は3人だけ、それを追う人間側も笹野高史率いる数人のおっさんのみと、やたらと世界がミニマムなんだけど、元が舞台作品と聞いてなんとなく納得。アバンタイトルでは、いかにも侵略ものといった感じのトンデモ地獄絵図が繰り広げられるんだけど、後は基本会話劇なところもその影響かな。もしくは、往年の低予算ボディスナッチホラーへの目配せか。

概念が抜け落ちた人間は、何かから解放されたかのように幸せな表情を見せたり、かと思ったら廃人のように放心したり、めちゃくちゃに暴れまわったり…と、いまいち描写が統一されてなくて、特に後者は単なる狂人みたいな描き方をされていて笑った。

主人公の一人である長澤まさみは、夫(松田龍平)を宇宙人に乗っ取られたばかりか、地球はもう侵略によって終わる寸前…という状況に置かれながらも、当の夫は他の女と浮気をしているし、仕事でもパワハラ・セクハラを受けてボロボロだしで、既に悲観しきっているからか、その状況について聞いてもショックを受けることはない。むしろ、宇宙人と化して別人に生まれ変わった夫との新しい関係性が終わってしまうことの方に絶望しているというのが面白い。ただのSFで終わるわけないとは思っていたけど、終盤はこの二人の「愛」の物語に収縮していくような作りになっていて、その想像以上のストレートな話にちょっとこっぱずかしい気持ちになったりもした。

しかし、今年は『ガーディアンズオブギャラクシー2』とか『メッセージ』、そして『美しい星』と、SFという題材を用いてパーソナルなものを描くという映画がやたらと多いな。意外と創作側からして作りやすい題材だったりするんだろうか。

(2017.141)[34]
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