神戸典

8年越しの花嫁 奇跡の実話の神戸典のネタバレレビュー・内容・結末

8年越しの花嫁 奇跡の実話(2017年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

幸せとは、優しさが触れ合いそこには2人だけの世界が広がる。一緒にいたいと思える人と笑って、話をして、寄り添い、共に歩んで行く。その全てが至上の幸せのような気がした。

佐藤健の幼い子供のような純粋な笑顔。そこにはマイへの優しさがあふれ出ていた。
マイの母親役の薬師丸ひろ子は子供を思う強い母親。それでも時に辛さを見せてしまったり、ヒサシに当たってしまったりという患者の家族としてのリアルを演じている。
それと同時にそこには母親という優しさのカーテンが静かに肩に被さるような安心を与えている。
父親役の杉本哲太は優しい父親を演じ、ヒサシを実の息子のように受け入れ、そしてヒサシの幸せをも願っている。

今回意外だったのは、しばしば悪役や嫌なやつを演じる北村一輝が、ヒサシの会社の社長役として、見事にヒサシに寄り添っている。
目が覚めない婚約者を待つヒサシに対してどう接したらいいのか悩みながらも、最後まで変わらず気にかけ見守っている。
その表情はこれまで私が観て来た北村一輝のどれにも当てはまらない新しい表情を見ることができた。以前見た『羊の木』の役柄とは真逆の性格で、彼の役者としての振り幅の大きさを伺えた。

そして、最後にマイを演じた土屋太鳳。
彼女の演技は驚かずにはいられない。
とても演技とは思えない。まるでほんとうに病気と闘っている患者かのような恐怖と辛さ、リアルさを見事に演じている。
特に、寝ている時に発作を起こし痙攣するシーンは言葉が出ない。

大切な人が目を覚まさない辛さは恐ろしいが、それ以上に大切な人に自分だけ忘れられるという現実を突きつけられる苦しさは想像できない。
それでもヒサシは寄り添い、諦めずに向きあった。一番辛いマイのそばで支えていたいから。
それでも記憶は戻らず、ヒサシはついにマイと別れを告げる。
しかしそれこそ自分の存在がいなくなることでマイから責任という苦しみから解放してあげたい。彼女は十分に頑張った。だからもう自分の幸せだけを考えて生きて欲しいという究極の優しさの結論だった。
それをマイに告げるシーン。悲しいはずのヒサシがマイの返事を聞いて心から嬉しく思う表情を見て、これが愛・優しさというものだと考えさせられた。

back numberの「瞬き」の
「幸せとは星が降る夜と眩しい朝が繰り返すようなものじゃない。大切な人に降りかかった雨に傘をさせることだ。」
この作品を見事に表している。この言葉以外に考えられないほどに。
守るつもりがいつのまにか守られてる。優しさはそれ以上の優しさで返って来る。
そして目を閉じても、目を開けてもいつも側にいて欲しい。
主題歌の歌詞も含めこの作品が出来上がっている。
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