小松屋たから

アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダルの小松屋たからのレビュー・感想・評価

5.0
観客と演者のいわゆる「第4の壁」を越える瞬間がいくつかあって、その絶妙なタイミングにドキッとさせられる。ここまでそれがうまくいっている映画は初めて。その点では「ジャージーボーイズ」をも越えているとまで思った。

本当に自分がスクリーンに向かって「なんだこいつ」とか思っているまさにその瞬間、トーニャが「あなた、今、こう思ってたでしょ?」とカメラ目線でこちらを見つめてくる。

それだけでもこの映画は観る価値がある。自分が波長があっただけかもしれないけれど。

これって、撮影前から決めてたんだろうか。それとも撮影が進んでいくうちにスタッフや演者が「ここだ!」と気づいていったのだろうか。

ドキュメンタリータッチで進むことで、観客が第三者の気分になって油断しているところに「第4の壁」を越えて人物が飛び込んでくる!

脚本、演技、背景の再現度が素晴らしいので、トーニャ・ハーディング本人のキャラクターはもちろん、当時のメディアや周囲の喧騒、「藪の中」さながらに食い違う証言、言い分がナマナマしく、結局誰が正しくて、誰が嘘をついているのかわからなくなるが、これこそ、まさに人間。誰もが自分にとっての真実を本気で言っているだけなのだ。

評価の別れる歴史的事件には、後世の人々がすっきりとした答えを出すことなど、できないのだとつくづく思わされた。

本人や関係者が存命のうちにこうした映画を成立させることができるのが、さすがハリウッドのビジネス。

いや、本当に面白かったです、この映画。