うめまつ

三度目の殺人のうめまつのレビュー・感想・評価

三度目の殺人(2017年製作の映画)
3.8
人格の容れ物こと役所広司の画面支配力が凄い。その透明な器は輪郭すら現さず、三隅という不確かな男で満たされ表面張力ギリギリを保って揺れている。肌の質感や瞳の粘膜まで役に浸されているように見える。どんな角度でも役所広司本人が透けて見えない事がどんどん不気味になってくる。パンの食べ方超怖い。まさしく千の仮面を持つ男。。

あ、つまり北島マヤの演技ってこうゆう事なんじゃないのかな?『ガラスの仮面』を新たに実写化する場合、演技力という観点に置いて今の日本で最も相応しいのは役所広司なんじゃないのかな?『奇跡の人』のヘレンケラー役なんて伝説になる予感しかしない。。ん?つまりこれで行くと福山雅治が速水真澄って事になるのかな?確かに謝り方を知らなそうな顔してるなぁ。いつ紫のバラ渡すんだろう。ドキドキ。。あーー!手から羽ばたくカナリアが見える!!マヤもパントマイムのレッスンでやってたなぁ。こんな所で役に立つとは。

。。ダメだ。脳内が紫色になってきた。多分息を詰めて見ているからだ。酸素が足りなくて脳が麻薬物質を作り出そうとしているに違いない。危険!!役所広司の過剰摂取は直ちに国が取り締まるべき!もう何が面白いのか理解するより先に目が追ってしまう。こんなに滑らかに緊張感を保てるものなのか。福山雅治は『容疑者Xの献身』といい怪物請負人みたいになってきたな。なんて苦しくて贅沢なポジション!熱湯で煮られながら絶景を見てる感じかな?

(中略)

観終わった今、事件の裏側に隠された三隅の気持ちを理解しようとする事は、雲を掴むように、煙を纏うように、雨を象るように不可能だと感じる。三隅は常に液体を注がれるのを待つ空っぽのグラスであり、対峙する者の鏡としてしか存在してないように見えたから。異常なほど共感性が高いが故に殺人鬼にも聖人にでも他者が思い描く人物になれてしまう。同情も憐憫も嫌悪も崇拝も畏怖も信頼も、彼を通して生まれる感情はすべて、そう思いたい自分が居るという証明に過ぎないのかもしれない。と私は思いたい。
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