Anima48

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーのAnima48のレビュー・感想・評価

4.4
古い家にいると、たまに軋みやらドアが開いているような気がする、案外僕がやったのかもね。

幽霊屋敷の話ともいえるし、ハードSF・哲学的な映画でもあったと思う、特に後半はハードSF、2001年宇宙の旅やタイムパラドックス物を観てるような感覚があった。お化けについてというよりも、人が生きた証って何だろうっていう映画だった。

独りでハロウィンしているようなCの恰好、表情が全く分からないのに切なく思う。影のせいか泣き顔のように見えるときも無邪気な子供が疑問を浮かべているようだったり、心配や気遣いの雰囲気もある。幽霊が手を伸ばしたり、首を傾けたり、シーツの襞の影等で見る人によっていろんな表情を読み取るのかもしれない。たまに中のCが透けて見えるんだけれどそれが却ってかつて人だった魂という感じがしてよかった。病院から帰る最中、大平原の中一人歩くCは、まるで、果てしなく続く永遠の時間と宇宙の中に孤独に放りだされた様のように見えた。・・そして幽霊って昼間でも出歩くんだね。

序盤は本当に喪失感でいっぱいになる、パイを食べながら涙を流すのは、独りの食卓が寂しいから?自分を憐れんで?悲しみのどん底でもご飯を食べれてしまう自分を哀しく想ってしまうから?Cに会いたくて会いたくて泣いてしまうんだろうか?そんなMをCは見守るというより見ていることしかできない。MはCと寝たシーツを洗濯し、日々を重ね、そして二人の家を後にする。Mの外出の連続とか時間の経過の描写が面白い。生きているMが死んだCに見送られるというのが少し皮肉を感じるし、CはMを追いかけない。Mの人生を尊重したのか、Mとの時間が終わってしまったと感じたのかはわからないけど。Mを見送ってからは、早回しになっていく。これが幽霊の時間間隔かもしれない、想いが詰まっている時間はゆったりと事細かに流れるってことなのかな

あの家はMがいなくなってから急速に幽霊屋敷化が進む。妻に執着というよりもあの家、妻と住んでいた記憶、そして自分を思い出せるから残したというあの手紙に執着していた。手紙を壁から取り出せないCはあの家に居続ける。おもちゃの銃で撃たれたからポルターガイストでお返しするとか軽く悪霊チックにもなる。そんな時間も家が解体されて手紙を手に入れなくなるまでだった。・・でもさ、ガッツがあれば割れた壁から手紙とれたかもね。自分の存在の意味も忘れ目的も叶わないと悟り隣人が消えていくシーンがとても哀切や無常を感じる。幽霊でも身投げは出来るんだと驚いた。もう死んでるCに死ぬなとも言えないし、そんな事したら思い切り茶碗が飛んできそうだ。だけど、Cはそこからさらに死んだ先に何があると思ったんだろう?Mと暮らした歴史が遠のいていく一方の時間に絶望したんだろうか?それとも銀河のもっと広大な時間に溶けていきたかったんだろうか?

人はいつか死んで地球も無くなる。だから芸術作品をつくることは無駄で、記憶からなくなったら本当の終わりだし、目的がなくなったら存在の終わり。でもそれは時間が一方にだけ進む人間の世界の話。時間が延び縮みして過去から未来に流れるだけの訳でもないCがいる世界ではまだ望みはあって、死んだ後に発見することもある。あの開拓一家の少女の手紙から、確かに受け取った物もあったんだろう。

そして円環の先で目にしたもう一人のシーツ姿に干渉もしない。Cは物は触れるけれど、人に触れて何かをするわけでもなく、思わず自分がいる事を知らせてしまう事はあるものの、自分の事故を食い止めるわけでもない。幽霊の意識はそんなことにこだわらないのか、もうそんなことどうでもよくなってしまったのか。(食い止めると事故が起こらず、手紙も書かれないので手に入れられないというのはあるかもしれないけれど)幽霊なりの事情や流儀があるのかもしれないし。ひょっとしたら手を加えることで、2人とこの家で過ごした事実や記憶が歪められるのを嫌がったのかもしれない。

Cがこだわっていたのは妻でも家でもなく一緒に過ごした記憶、あの手紙に何が記されていたのか知りたいというよりも二人がここにいたという確証が欲しかったかもしれない。..あの手紙を読むと二人一緒だった時を掴み、CとMが一緒にいた証を実感できる筈だから。

広大な宇宙の中で僕らはとっても塵のように弱くて小さく哀れで、もし今居ても居なくてもそんなことは銀河の中では意味なんてないかもしれない。けれど埃のような僕らのいた証が、集まって星雲を形作っているかもしれないし、あの星屑は僕でその星屑はあの人かもしれない、そして一つの宇宙の中で時間も超えていつも繋がっているかもしれない。そうだとしたら、Cが見上げた夜空のように僕らは大きな流れの中にいるのかもしれない。

もう消えてなくなってしまいたくなるくらいの想いに耐えれなくなる夜にも、音もなく寄り添ってくれるような映画だった。

・・・僕の背後で灯りがチカチカしているような気がする。
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