カツマ

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーのカツマのレビュー・感想・評価

4.2
そのゴーストの瞳は何故だかとても悲しそうに見えた。愛する人は目の前に。だが、その狭間は永遠のように遠ざかる。
想いの残滓をゴーストとして可視化。壁を削る音が無音のBGMの上を鈍く寂しく通り過ぎる。ただその姿を見ているだけで自然と涙がこぼれてしまうのは、こんなにも最後の時を待っていたからだったのだろうか。泣いているような黒い瞳が舞うならば、白き想いは床へと消えた。

ケイシー・アフレックとルーニー・マーラが恋人役として出演しているが、それもまたひと時の想い出のように儚い時間。劇中の音楽はほぼ無音。その隙間に吹き込んで来るそよ風は、優しく包み込むようなエレポップ。二人の想い出の曲、消せない記憶。これはあるゴーストの物語。

〜あらすじ〜

一人の男が自動車事故で突然の死を迎えた。一人残された妻は、悲しみの中、霊安室で夫の死体にシーツをかける。
・・少しの静寂の末、男はシーツを被ったまま起き上がり、病院から二人の家へと向けて歩き出した。
夫を亡くし、一人帰宅した妻。一心不乱にパイを頬張り、寂寥感が押し寄せる。だが、彼女の後ろに夫はいた。シーツを被ったゴーストとなって。妻からは夫の姿を見ることは出来ない。ただ、ゴーストはその場で彼女のことを見つめ続けていく・・。

〜見どころと感想〜

静寂と寂寥が波のようにゆっくりと押し寄せては、淡々と概念を無くした時間と共に過ぎていく。静かな映画だった。ゴーストの想いは画面上に溢れ出るほどに満ちていて、それは暖色のエレクトロニカのように心の奥へと沁みていく。

ゴーストの視点から描かれたゴーストの物語。人によっては悲しくも、優しくも、美しくも感じるかもしれない。ゴーストは執着の権化とも思われたし、またその場所に宿る精霊にも見える。ただ、我々はその存在を見ることができた。いつまでも変わらないもの、そして魂の行方までも。

〜あとがき〜

個人的にはとても好きでした。静かで寂しいのに優しくて。見る人によってはきっと涙が止まらなくなってしまうのではないでしょうか。悲しくて泣いているのか、それすらも分からなかったけれど、不思議と涙が滲んでしまうのが止められなかった映画でした。
カツマ

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