とりん

ワイルドライフのとりんのレビュー・感想・評価

ワイルドライフ(2018年製作の映画)
3.9
2020年107本目

1960年代、モンタナ州の田舎町で暮らす14歳の少年ジョーは、仲の良い両親とともに幸せに暮らしていた。
ある日、父がゴルフ場の仕事を解雇され、山火事を食い止める危険な出稼ぎ仕事へ向かい、家を離れてしまう。
残された母子はそれぞれ仕事をするが、乱れた心は収まらず、不安と孤独にさいなまれるようになる。

幸せな家族が静かに壊れゆく様子を14歳の息子の視点を通して描かれている。
この息子の立場になるととてつもなくやるせない気持ちになる。
職をなくしプライドも捨てきれずさまよう父、妻子がそれぞれに仕事を始めたことによる自分の立場のなさや負い目を感じ、気になっていた命がけな仕事に信念を持って向かう。
もちろん勇気あることだし、素晴らしいことなんだけど、家族にも相談なく行くもんだから、妻子も不安になってしまう。止めても聞かない頑固だし。
残された妻は心が乱されたまま、自分を見失い始めて、自分が働いていた水泳教室にいた、自分とは住む世界が違う裕福な歳上の男性に興味を抱いてしまう。
きっと彼女自身も本意ではなかっただろう。何度も息子の顔を見ては我に帰るような顔もしていたし、自分がわからなくなった壊れていってしまうような時もあった。
そして息子、そんな両親を見て自分もどうにかしなくちゃと思うがどうにもならず、自分にできることを流れに身を任せるようにしていくしかない感じが伝わってくる。
個人的には誰の立場になっても気持ちがわかってしまうという部分がすごく心苦しかった。
それでもやはり息子のジョーは気持ちが大人というか整理つけれてないけど、自分なりに必死に整理していこうとしているのがすごいし、そうだったからこそ最後へと繋がると思う。
母と相手が一線を超える瞬間を目撃してからのやるせなさは痛々しかったし、その後の初雪が降り父が帰ってくると悟って、元に戻るのではという期待の感情とも取れる学校へ向かうバスに乗らず家路に走り出す姿は印象的だった。
ただ待っていたのは更なる地獄だったし、その事実を知った父の怒りなどにより家庭内が事実上の崩壊を見せたときの、ジョーの顔。もうエド・ボクセンボールドの演技が素晴らしかった。
もちろんこの両親を演じたキャリー・マリガン、ジェイク・ギレンホールの演技も文句なし。
演技に定評ある2人だし、なにより大好きなこの2人の共演が観れたのが何よりも嬉しい。
それがこんな難しい役で、それを見事に演じ切るのもさすがだなと。
結局ラストもスッキリして終わるわけではないけど、いろいろと整理がつき、顔を見合わせる3人を見るとここまで辛くなった心が少し軽くなった。
ジョーがバイトしている写真屋で写真を撮るという途中の写真屋店主の言葉の伏線を回収するような終わり方も良かった。

「人は"善きこと"を記録するために写真を撮る。幸せな瞬間を永遠に残そうと。その手伝いだ」
その台詞から繋がるに、壊れてしまった幸せな家庭に少し幸せが戻ったのだはないかとも取れた。

監督は本作が初めての作品となり、元々は「スイス・アーミー・マン」で個性的な役を演じた俳優がメガホンを取っている。
少しカメラワークが気になる点もあったけど、初めてとは思えない良質な作品だった。
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